自然犯たると行政犯たるとを問はず、犯意の成立には、違法の認識を必要としない。
犯意の成立と違法の認識
刑法38条,昭和22年政令165号1条,昭和22年政令165号2条
判旨
自然犯か行政犯かを問わず、故意の成立には違法性の意識を必要とせず、法律上許された行為であると誤信したとしても故意は阻却されない。
問題の所在(論点)
故意の成立に違法性の意識が必要か、また、法律上許された行為であると誤信した場合に故意が阻却されるか(法律の錯誤)。
規範
故意(刑法38条1項)の成立には、自己の行為が法律上禁止されていることの認識、すなわち違法性の意識を必要としない。したがって、行為者がその行為を法律上許容されたものと誤信したとしても、原則として故意は阻却されない。
重要事実
被告人は、進駐軍物資を運搬・所持したとして、物価統制令違反等(行政犯)に問われた。被告人は、当該物件が進駐軍物資であることを認識していたが、それが法律上禁止されていること(違法性)を認識せず、むしろ法律上許された行為であると誤信して運搬・所持していた。
あてはめ
事件番号: 昭和23(れ)775 / 裁判年月日: 昭和24年4月9日 / 結論: 棄却
論旨は、政令の公布後短日月なること等より當時被告人は、當該行爲が法令上禁止せられているとの意識がなかつたと主張するのであるけれども法の不知は犯罪の違法性を阻却するものでないことは刑法の規定するところであつて、かりに被告人が具體的にいかなる法令によつてその行爲が禁止せられているかを知らなかつたとしても既に前段説明のごとく…
被告人は本件物件が進駐軍物資であることを認識した上で運搬所持しており、構成要件的該当事実に係る認識は存在した。故意の成立には違法性の意識は不要であるため、被告人が本件行為を「法律上許された行為である」と誤信していたとしても、その事情は故意を阻却する事由にはならない。よって、違法性の認識の有無を裏付ける証拠を示す必要もなく、犯罪は成立する。
結論
被告人に違法性の意識がなく、行為が許容されると誤信していたとしても、故意は阻却されず本罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、判例が伝統的に採用する「不要説(制限故意説ではない)」を明示したものである。司法試験においては、刑法38条3項但書の解釈や、違法性の意識の可能性を考慮する責任説の立場から本判決を批判的に検討する際の出発点として利用する。
事件番号: 昭和26(れ)485 / 裁判年月日: 昭和26年8月28日 / 結論: 棄却
一 原判決はその事実摘示(第一審判決の記載引用)において、被告人Aが二回に亘つて占領軍兵士某から占領軍物資を収受して不法に所持した旨を判示しているが、二個の占領軍物資不法収受罪乃至同所持罪を認定したのではなく、包括して一個の同所持罪を認めたものであることがその判文上からおのづからわかる。論旨は原判決が二個の犯罪を認めた…
事件番号: 昭和26(れ)78 / 裁判年月日: 昭和26年4月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】故意の成立には、行為が法に触れるものであるという違法の認識は必要ではなく、罪となるべき事実の認識があれば足りる。 第1 事案の概要:被告人は、連合国占領軍将兵の財産であるオートバイを買い受け、所持した。被告人は、当該オートバイが「帰還する進駐軍兵隊の私物であり、売却を頼まれた正当な品」であるとの説…
事件番号: 昭和26(あ)284 / 裁判年月日: 昭和28年2月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法上の「所持」の概念については、物の事実上の支配を意味するものであり、原審の解釈に誤りはない。また、被告人の主張する免責事由が認められない以上、当該所持行為を罰することは正当である。 第1 事案の概要:被告人は軍票(軍用手票)を所持していたとして起訴された。被告人は、当該軍票を所持するに至った経…
事件番号: 昭和23(れ)1214 / 裁判年月日: 昭和24年4月16日 / 結論: 棄却
被告人は進駐軍の財産に屬する煙草を所持することの禁ぜられていることは知つてゐたが、その禁令によつて定められた刑罰の種類について錯誤があつたと主張するのであるが、かりに、右のごとき事實があつたとしても刑法第三八條第二項の規定は、犯罪の構成要件たる事實の認識について錯誤のあつた場合の規定であつて所論のごとき法定刑の種類につ…