論旨は、政令の公布後短日月なること等より當時被告人は、當該行爲が法令上禁止せられているとの意識がなかつたと主張するのであるけれども法の不知は犯罪の違法性を阻却するものでないことは刑法の規定するところであつて、かりに被告人が具體的にいかなる法令によつてその行爲が禁止せられているかを知らなかつたとしても既に前段説明のごとくその所爲の反社會性についての認識のあつたことが認められる以上その所爲について右政令違反の罪責を免れないことは當然といわなければならない。
行爲の反社會性についての認識と法の不和
昭和22年政令165號,刑法38條3項
判旨
法の不知は犯罪の成立を妨げない。具体的法令の存在を認識していなくても、自己の行為の反社会性を認識している以上は、有責性を否定することはできない。
問題の所在(論点)
具体的法令の存在を認識していない「法の不知」がある場合に、犯罪の成立が妨げられるか。特に、行為の反社会性の認識がある場合に故意や責任を否定できるかが問題となる。
規範
刑法38条3項本文の原則通り、法の不知は犯罪の成立(違法性・有責性)を阻却しない。たとえ具体的ないかなる法令によってその行為が禁止されているかを知らなかったとしても、その行為の反社会性(占領目的を阻害する等の不当性)についての認識があれば、罪責を免れることはできない。
重要事実
被告人は昭和22年11月、正当な事由なく連合国占領軍の物資を入手・所持した。当時、占領軍物資の収受・所持を禁ずる政令第165号が施行されていたが、被告人は政令公布後短期間であったこと等を理由に、当該行為が法令上禁止されているとの認識がなかったと主張した。一方で、被告人は新聞記事等を通じて、占領軍に協力すべきことや占領目的を阻害してはならないという程度の認識は有していた。
事件番号: 昭和24(れ)2276 / 裁判年月日: 昭和25年11月28日 / 結論: 棄却
自然犯たると行政犯たるとを問はず、犯意の成立には、違法の認識を必要としない。
あてはめ
本件当時、占領軍物資の収受禁止は国内で広く周知されており、占領目的に協力することは国民の常識であった。被告人も新聞記事等から、自身の行為が占領目的を阻害し得るという程度の認識(反社会性の認識)を有していた。この場合、仮に具体的法令を知らなくとも、自己の行為が社会的に許されないものであるとの認識がある以上、道義的非難を免れることはできず、法の不知を理由に違法性や有責性を阻却することはできない。
結論
被告人に具体的法令の認識がなかったとしても、行為の反社会性の認識がある以上、政令違反の罪責を免れない。
実務上の射程
刑法38条3項の「法の不知」に関する古典的判例であり、故意の体系的地位や違法性の意識の要否が問題となる場面で、厳格な責任説や制限故意説との対比として、判例が「反社会性の認識」を重視している点を示す際に活用できる。
事件番号: 昭和26(れ)485 / 裁判年月日: 昭和26年8月28日 / 結論: 棄却
一 原判決はその事実摘示(第一審判決の記載引用)において、被告人Aが二回に亘つて占領軍兵士某から占領軍物資を収受して不法に所持した旨を判示しているが、二個の占領軍物資不法収受罪乃至同所持罪を認定したのではなく、包括して一個の同所持罪を認めたものであることがその判文上からおのづからわかる。論旨は原判決が二個の犯罪を認めた…
事件番号: 昭和23(れ)1214 / 裁判年月日: 昭和24年4月16日 / 結論: 棄却
被告人は進駐軍の財産に屬する煙草を所持することの禁ぜられていることは知つてゐたが、その禁令によつて定められた刑罰の種類について錯誤があつたと主張するのであるが、かりに、右のごとき事實があつたとしても刑法第三八條第二項の規定は、犯罪の構成要件たる事實の認識について錯誤のあつた場合の規定であつて所論のごとき法定刑の種類につ…
事件番号: 昭和26(れ)78 / 裁判年月日: 昭和26年4月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】故意の成立には、行為が法に触れるものであるという違法の認識は必要ではなく、罪となるべき事実の認識があれば足りる。 第1 事案の概要:被告人は、連合国占領軍将兵の財産であるオートバイを買い受け、所持した。被告人は、当該オートバイが「帰還する進駐軍兵隊の私物であり、売却を頼まれた正当な品」であるとの説…
事件番号: 昭和26(あ)284 / 裁判年月日: 昭和28年2月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法上の「所持」の概念については、物の事実上の支配を意味するものであり、原審の解釈に誤りはない。また、被告人の主張する免責事由が認められない以上、当該所持行為を罰することは正当である。 第1 事案の概要:被告人は軍票(軍用手票)を所持していたとして起訴された。被告人は、当該軍票を所持するに至った経…