被告人は進駐軍の財産に屬する煙草を所持することの禁ぜられていることは知つてゐたが、その禁令によつて定められた刑罰の種類について錯誤があつたと主張するのであるが、かりに、右のごとき事實があつたとしても刑法第三八條第二項の規定は、犯罪の構成要件たる事實の認識について錯誤のあつた場合の規定であつて所論のごとき法定刑の種類について錯誤があつたというに過ぎない場合に適用を見るべき規定はない、また右のごとき錯誤の主張はもとより舊刑事訴訟法第三六〇條第二項にいわゆる、「法律上犯罪ノ成立ヲ阻却スヘキ事由又ハ刑ノ加重滅免ノ原由タル事實ノ主張」にあたらないのであるから原判決かこれに對して特に、何等の判斷を示してゐないとしても、所論のごとき違法ありとはいえない。
法定刑の種類についての錯誤の主張と舊刑訴法第三六條第二項
昭和22年政令165號,刑法38條2項,舊刑訴法360條2項
判旨
法定刑の種類に関する錯誤は、刑法38条2項(現行の事実の錯誤)が規定する「犯罪の構成要件たる事実」の錯誤には当たらない。したがって、禁止行為であることを認識しながら刑罰の内容を誤認したとしても、犯罪の成立は妨げられず、裁判所が判決で特段の判断を示す必要もない。
問題の所在(論点)
犯罪の禁止は認識していたが、それに対する「法定刑の種類」について錯誤がある場合、刑法38条2項の適用があるか。また、かかる主張は判決において判断を示すべき「法律上犯罪の成立を阻却すべき事由」に該当するか。
規範
刑法38条2項(重い罪に当たるべき行為をしたのに、実行の時にその重い罪の事実を知らなかった場合)は、犯罪の構成要件たる事実の認識に錯誤がある場合を規定したものである。これに対し、禁止されている行為自体の認識がありながら、その行為に対して科される法定刑の種類を誤認したに過ぎない場合は、同条の適用範囲外である。
重要事実
事件番号: 昭和23(れ)775 / 裁判年月日: 昭和24年4月9日 / 結論: 棄却
論旨は、政令の公布後短日月なること等より當時被告人は、當該行爲が法令上禁止せられているとの意識がなかつたと主張するのであるけれども法の不知は犯罪の違法性を阻却するものでないことは刑法の規定するところであつて、かりに被告人が具體的にいかなる法令によつてその行爲が禁止せられているかを知らなかつたとしても既に前段説明のごとく…
被告人は、進駐軍(連合国占領軍)の財産に属する煙草を所持することが禁止されている事実は認識していた。しかし、その禁令違反によって定められた刑罰の種類(法定刑)について錯誤があったと主張し、原判決がこの点について判断を示していないことが理由不備の違法に当たると主張して上告した。
あてはめ
被告人は進駐軍の財産である煙草の所持が禁止されていることを知っていたため、客観的構成要件に該当する事実の認識(故意)は認められる。法定刑の誤認は「構成要件たる事実」の錯誤ではないため、故意を阻却したり刑を減軽したりする理由にはならない。よって、原判決がこの錯誤の主張について判断を遺脱したとしても、法令違反には当たらない。また、目的物が「連合国占領軍の財産である煙草」であれば足り、名称の特定までは不要である。
結論
法定刑の錯誤は構成要件的事実の錯誤ではないため、犯罪の成立を妨げない。上告棄却。
実務上の射程
責任故意の対象が「構成要件的事実」に限定されることを確認する判例。法律の不知(38条3項)や事実の錯誤(38条1・2項)と異なり、刑罰自体の誤認は弁護側の主張として排斥される。判決書の理由に記載すべき「阻却事由」の範囲を画定する実務上の意義もある。
事件番号: 昭和24(れ)2276 / 裁判年月日: 昭和25年11月28日 / 結論: 棄却
自然犯たると行政犯たるとを問はず、犯意の成立には、違法の認識を必要としない。
事件番号: 昭和26(あ)284 / 裁判年月日: 昭和28年2月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法上の「所持」の概念については、物の事実上の支配を意味するものであり、原審の解釈に誤りはない。また、被告人の主張する免責事由が認められない以上、当該所持行為を罰することは正当である。 第1 事案の概要:被告人は軍票(軍用手票)を所持していたとして起訴された。被告人は、当該軍票を所持するに至った経…
事件番号: 昭和26(れ)485 / 裁判年月日: 昭和26年8月28日 / 結論: 棄却
一 原判決はその事実摘示(第一審判決の記載引用)において、被告人Aが二回に亘つて占領軍兵士某から占領軍物資を収受して不法に所持した旨を判示しているが、二個の占領軍物資不法収受罪乃至同所持罪を認定したのではなく、包括して一個の同所持罪を認めたものであることがその判文上からおのづからわかる。論旨は原判決が二個の犯罪を認めた…
事件番号: 昭和26(れ)78 / 裁判年月日: 昭和26年4月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】故意の成立には、行為が法に触れるものであるという違法の認識は必要ではなく、罪となるべき事実の認識があれば足りる。 第1 事案の概要:被告人は、連合国占領軍将兵の財産であるオートバイを買い受け、所持した。被告人は、当該オートバイが「帰還する進駐軍兵隊の私物であり、売却を頼まれた正当な品」であるとの説…