物価統制令違反の取引について被告人が予め県当局の諒解を得ていたとしても、同令第七条に基く例外価格の認可があつたというのでもない場合は、統制価格を左右する効力のないこと勿論であるから、統制違反の罪責を免れしめる事由に当らない。従つて原審がこの点につき審判しなかつたことは当然であつて、違法ではない。
県当局の諒解が物価統制令第七条の認可にならない場合にこの点につき審判しなかつたことの適否
物価統制令7条,物価統制令3条,旧刑訴法407条,旧刑訴法345条,旧刑訴法360条2項
判旨
物価統制令による価格統制が廃止されても、廃止前の違反行為の罪責は消滅せず、憲法39条にも反しない。また、行政当局の独自の「諒解」があったとしても、法令上の手続に基づかない限り、統制価格を左右する効力はなく、違法性は阻却されない。
問題の所在(論点)
1. 規制緩和・撤廃後の行為時法の適用と憲法39条の成否。2. 法令上の例外手続に基づかない行政当局の独自の合意(諒解)が、統制違反の罪責を免れさせる正当化事由(違法性阻却事由)となり得るか。
規範
1. 経済事犯において、事後の法改正により規制が撤廃されたとしても、特段の事情がない限り、行為時の違法性は失われず、憲法39条にいう「既に無罪とされた行為」にも該当しない。2. 行政庁の個別の「諒解」が、法令(物価統制令7条等)に基づく正式な認可手続を経ていない場合、それは公定の統制価格を変更させる法的効力を有さず、違反行為の罪責を免れしめる事由とはならない。
重要事実
被告人は、物価統制令に違反する価格で取引を行ったとして起訴された。被告人側は、(1)物価統制令は憲法25条に反し、価格統制の廃止によって無罪となるべきであること(憲法39条違反)、(2)本件取引について、事前に県当局の「諒解」を得ていたことを主張し、無罪または違法性阻却を求めて上告した。
あてはめ
1. 物価統制令違反については、価格の統制が事後に廃止されたとしても、行為当時に成立した犯罪の処罰を免れしめるものではない。したがって、憲法39条違反の主張は採用できない。2. 被告人が主張する県当局の「諒解」は、物価統制令7条に基づく例外価格の認可(正式な行政処分)ではない。正式な認可を欠く以上、県当局による事実上の了解があったとしても、それは法的に統制価格を左右する効力を持ち得ない。よって、そのような事情は統制違反の罪責を免れしめる事由に当たらない。
結論
被告人の上告を棄却する。物価統制令は合憲であり、正式な認可を欠く県当局の諒解があっても罪責は免れない。
実務上の射程
法令に基づかない行政指導や「諒解」に依拠して脱法行為を行った場合であっても、違法性は阻却されないという判断枠組みを示す。行政法規違反の犯罪において、行政庁の担当者の個人的な見解や事実上の承認に期待可能性や違法性阻却を認めることについて、厳格に制限する姿勢を示したものといえる。
事件番号: 昭和24(れ)2527 / 裁判年月日: 昭和26年7月6日 / 結論: 棄却
憲法第二五条の法意は、その第一項は国家は国民一般に対して概括的に健康で文化的な最低限度の生活を営ましめる責務を負担し、これを国政の任務とすべきであること、第二項は国家はすべての生活部面について社会福祉、社会保障及びの公衆衛生の向上並びに増進のためかかる社会的施設の拡充増進に努力すべきであることを各宣言した趣旨と解すべき…