一 被告人が本件犯行の当時極度の神経衰弱に陥つていたという弁護人の主張が、被告人の司法警察官に対してした自白が信用できないという事情若しくは犯情の一としてなされたことが明らかであるときは、旧刑訴法第三六〇条第二項の主張があつたものということはできない。 二 原判示実況見分書が、数回に亘る見分について、一度に作成せられたものであるとしても、所論のように全面的にその証拠価値を否定すべきものではなく、要は、右書類に関する証拠価値判断の問題でありもとより原審の専権に属するところである。
一 被告人が心神耗弱者であるとの主張があつたものと認められない事例 二 数回に亘る見聞について一度に作成された実況見分書の証拠力
旧刑訴法360条2項,旧刑訴法337条
判旨
被告人の自白の任意性は、取調の時間、暴行・強迫・誘導の有無、および当時の被告人の精神状態を総合して判断される。強度の神経衰弱であっても、事理弁別能力を欠かない状態での自白は任意性を欠くとはいえない。
問題の所在(論点)
憲法38条2項及び刑訴法319条1項に基づく自白の任意性の判断基準。特に、短時間の取調と被告人の精神疾患(神経衰弱)が自白の任意性に及ぼす影響が問題となる。
規範
自白の任意性は、供述に至るまでの経緯(取調時間、手法)、外部からの強制(暴行、拷問、強要、誘導等)の有無、および供述者の精神状態を総合的に考慮して判断する。精神的な疾患があっても、それが直ちに供述の任意性を失わせるものではなく、事理弁別能力やそれに伴う行動能力への影響度合いによって決せられる。
重要事実
被告人は警察における取調開始後、約1時間40分で自白した。取調中に暴行はなく、強要や誘導もなかった。被告人は当時、相当強度の神経衰弱にかかっていたが、鑑定によれば事理弁別能力やそれに基づく行動能力に障害はなかった。弁護人は、この自白が強制等による任意性を欠くものであり、また心神耗弱の主張が看過されたと主張して上告した。
あてはめ
まず、取調時間が1時間40分と比較的短時間であり、その間の暴行の不存在を被告人自身も認めている。次に、強要や誘導といった供述の自由を阻害する事跡も認められない。さらに、被告人が強度の神経衰弱であったとしても、鑑定によれば事理弁別能力は維持されており、自白当時の精神状態が供述の任意性を奪うほどのものであったとはいえない。以上から、自白は強制や拷問等による任意性を欠くものとは認められない。
結論
被告人の自白に任意性は認められ、証拠能力を肯定した原判決に違憲・違法はない。上告棄却。
実務上の射程
自白の任意性否定を主張する際、精神疾患がある場合は事理弁別能力への影響を具体的に論じる必要がある。短時間の取調で暴行等がない場合、精神的疾患のみで任意性を否定するのは困難であることを示唆している。また、弁論において自白の信用性を争う主張と、心神耗弱等の刑の減軽事由の主張を峻別すべき点も実務上重要である。
事件番号: 昭和27(れ)124 / 裁判年月日: 昭和28年6月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自白の証拠能力に関し、強制や拷問があったと疑われる特段の事情がない限り、警察官等に対する自白に任意性がないとする理由はない。また、差戻後の裁判所は、差戻前の審級が経験則違反や審理不尽とされた判断の範囲内で、改めて証拠能力を判断することができる。 第1 事案の概要:被告人が捜査段階で行った自白調書に…
事件番号: 昭和27(あ)5163 / 裁判年月日: 昭和29年3月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】任意性に疑いのある自白は証拠能力を欠くが、被告人及び弁護人が同意し、かつ記録上任意にされたものでないと疑うべき理由がない場合には、証拠とすることができる。 第1 事案の概要:被告人が司法警察員に対して行った各供述(自白調書及び上申書)について、弁護人は取調官による暴行、強制、誘導に基づいたものであ…