判旨
物価統制令違反の行為後、統制価格に関する告示が廃止されたとしても、それは単なる事実の変化にすぎず、刑法6条及び刑事訴訟法402条(旧刑訴法363条)にいう「刑の廃止」には該当しない。
問題の所在(論点)
物価統制令違反の行為後に、具体的な統制価格を定めた告示が廃止された場合、刑事訴訟法にいう「刑の廃止」に該当するか。特に、法律自体の廃止と、その委任に基づく告示の廃止をどう区別すべきかが問題となる。
規範
法令の改廃により刑が廃止された場合に免訴となる(刑訴法337条2号)が、特定の事態に対処するための時限的な規制や、社会情勢の変化に伴う経済的規制の変更(告示の廃止等)は、法律そのものの改廃による「刑の廃止」には当たらない。これは、処罰の根拠となる法令が効力を失ったのではなく、その適用対象となる事実関係が消滅したにすぎないためである。
重要事実
被告人は、物価統制令3条に違反する行為(超過価格による取引等)を行った。しかし、当該行為の後に、違反の対象となっていた統制価格に関する告示が廃止された。被告人は、この告示の廃止が旧刑訴法363条(現行刑訴法337条2号等)の「刑の廃止」に該当し、免訴されるべきであると主張して上告した。
あてはめ
最高裁判所大法廷判決(昭和25年10月11日)の趣旨によれば、物価統制令のような経済統制法規において、告示によって定められる価格等は事態の推移に応じ適宜変更される性質のものである。本件においても、告示が廃止されたことは、特定の物資に関する価格統制の必要性が事実上消滅したことを意味するにすぎず、物価統制令が目的とする禁止の趣旨そのものが法的に撤廃された(=刑の廃止)とは解されない。したがって、行為時の告示に基づく価格制限を逸脱した以上、その後の告示廃止にかかわらず可罰性は維持される。
結論
統制価格に関する告示の廃止は「刑の廃止」には該当しない。したがって、被告人の上告を棄却し、有罪とした原判決を維持する。
事件番号: 昭和26(れ)717 / 裁判年月日: 昭和26年7月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】物価統制令違反の行為後に、同令に基づく価格統制額を指定した主務官庁の告示が廃止されたとしても、刑訴法337条2号(旧刑訴法363条2号)にいう「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき」には当たらない。 第1 事案の概要:被告人は、物価統制令3条に違反して、告示により指定された統制価格を超える価格で衣…
実務上の射程
法律の変更が「法律の改廃(法的見解の変化)」か「事実の変化」かを区別する、いわゆる「限時法の理論」に関するリーディングケースである。答案上は、経済法規や時限的規制の改廃が問題となる場合に、行為当時の違法評価を維持すべき必要性(実効性確保)を根拠として、刑法6条の「法律の変更」や刑訴法の「免訴」を否定する論理として活用できる。
事件番号: 昭和25(あ)1147 / 裁判年月日: 昭和26年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】経済統制法違反の犯罪成立後、当該告示が廃止されたとしても、それは刑罰そのものを廃止するものではない。したがって、刑法6条(法律の変更)や刑訴法337条2号(刑の廃止)は適用されず、免訴の判決をすべき理由とはならない。 第1 事案の概要:被告人は経済統制法に違反する行為を行ったが、犯罪成立後にその根…
事件番号: 昭和25(れ)1672 / 裁判年月日: 昭和26年3月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】物価統制令違反の行為後に統制額指定の告示が廃止されたとしても、刑訴法337条2号(旧刑訴法363条2号)にいう「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき」には当たらない。いわゆる限時法や事実の変遷に伴う規制の廃止は、法の反省的考慮に基づく刑の廃止とは区別される。 第1 事案の概要:被告人が、物価統制令…