原審における附郵便送達が事実上到達しなかつたとしても右不送達の原因は、被告人の住居の申出の不完全なことに基因するものと認められるばかりでなく、被告人は、同年三月六日午前九時の判決言渡期日を同年二月二三日適式に通知され且つ右言渡期日に被告人自身が原審公判廷に出頭したにかかわらず、前記再度の公判期日の通知が不送達であつたことを申し出ることなく且つ弁論再開等の申立をもしなかつたことも記録上明白である。されば、当裁判所は、結局刑訴四一一条を適用して原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認めることができない。
公判期の召喚状の不送達と刑訴第四一一条
旧刑訴法76条,旧刑訴法410条8号,新刑訴法411条
判旨
被告人が不正確な住居を届け出たことにより召喚状が不達となった場合、書留郵便に付した発送時に送達されたものとみなされる送達手続(郵便送達)は適法である。また、手続上の瑕疵があったとしても、被告人が判決言渡期日に出頭しながら弁論再開を申し立てない等の事情があれば、原判決の破棄は不要である。
問題の所在(論点)
被告人が届け出た住所が不正確であったために召喚状が不達となり、被告人が欠席のまま審理が行われた場合、召喚手続は適法か。また、被告人に欠席の故意・怠慢が認められない場合、職権による判決破棄(刑訴法411条)が必要となるか。
規範
裁判所の所在地外に居住する被告人に対し、被告人が届け出た住居宛てに書留郵便をもって召喚状を発送したときは、発送の時に送達があったものとみなされる(郵便送達の擬制)。住居の不正確な表示に起因して書類が不達となった場合であっても、発送手続に瑕疵がなければ送達は一応適法である。その上で、実質的な防御権侵害の有無を考慮し、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められるか否かを判断すべきである。
重要事実
被告人は第一審において、その住居を久留米市内の特定の住所と届け出て、保釈許可決定においても同所に住居を制限されていた。控訴審の書記官は、公判期日の召喚状を当該住所宛てに二度にわたり書留郵便で発送した。しかし、実際には届け出た住所の「町名」と「番地」の組み合わせが実在せず(他丁目に同番地が存在した)、召喚状は返還され被告人に到達しなかった。被告人は公判期日に出頭できなかったが、その後の判決言渡期日には通知を受けて出頭した。その際、被告人は召喚状の不達を申し出ることなく、弁論再開の申立てもしなかった。
あてはめ
本件では、召喚状が被告人の届け出た住居宛てに適式に発送されており、郵便送達の擬制により送達は適法と解される。不送達の原因は被告人の不完全な住居申出に起因しており、裁判所の責任ではない。さらに、被告人は判決言渡期日には自ら出頭したにもかかわらず、前の期日の通知が不達であったことを訴えたり、弁論の再開を求めたりしていない。このような訴訟経過に照らせば、被告人に実質的な防御の機会が失われたとしても、なお原判決を破棄しなければ著しく正義に反する状況とは認められない。
結論
被告人の住居表示の不備により召喚状が不達となった場合でも、発送時送達の効力は認められ、不出頭のままなされた審理を破棄しなければ著しく正義に反するとはいえないため、上告を棄却する。
実務上の射程
刑事訴訟法における送達の適法性と、訴訟手続の法令違反を理由とする職権破棄の基準を示す。被告人自身の過失(住所誤記)と、その後の訴訟態度(救済機会の放棄)を総合考慮する判断枠組みは、手続的瑕疵が判決に及ぼす影響を検討する際の参考となる。
事件番号: 昭和27(あ)345 / 裁判年月日: 昭和28年10月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】起訴状謄本が被告人に送達された形跡がない場合であっても、それが直ちに判決に影響を及ぼすべき法令の違反(刑訴法411条1号)には当たらない。 第1 事案の概要:被告人に対し、刑事訴訟法に基づき送達されるべき起訴状謄本が送達された形跡が記録上認められないという事態が生じた。弁護人は、この手続上の不備を…
事件番号: 昭和26(れ)1792 / 裁判年月日: 昭和26年10月12日 / 結論: 破棄差戻
被告人が第一審裁判所における保釈の制限住居に居住し、その後転宅又は長期間家を不在にしたことはなく、右制限住居に宛てた他の郵便物も被告人に到達しているのに、原審が同人に対するこの制限住居宛の公判期日の召喚状が郵便局集配人により「宛先番地を尋ねたるも不明、転居先不明」の事由により返戻されたことの一事をもつて、他に何等の調査…