そして被告人は第一審において保釈決定を受け、その制限住居を別府市ab番地と指定されていたのであり、その住居が、被告人提出にかかる昭和二六年二月二三日付住居変更届に基ずき原審において同年三月六日東京都武蔵野市cd番地と変更せられるまでは、前記別府市ab番地に居住していたものと認められる。しかるに被告人において、原審に対し、その所在地に住居又は事務所を有する物を送達受取人に選任しその者と連署した書面を以てこれが届出をなした証跡は存在しないのであるから、原審においては、旧刑訴七六条により被告人に対する書類の送達は郵便に付してなすことを得た筈である。尤も右公判期日の召喚状は、いずれも「受取人不明」との事由の下に原審に返戻されたものの如くであり、被告人が右公判期日に出頭しなかつたこともその召喚状が被告人に到達しなかつたためであると認められないわけではない。しかし郵便に付する送達は「書類ヲ郵便ニ付シタル時ヲ以テ之ヲ為シタルモノト看做ス」と定めた旧刑訴七六条二項の規定は、予めその書類が到達しないような場合おも考慮し、かかる場合においてもなお送達の効力を認めんとするものである。
郵便に付する送達と書類到達の要否
旧刑訴法75条,旧刑訴法76条
判旨
被告人が住居変更届等の義務を怠った場合に、書類を郵便に付した時点で送達の効力を認める規定(旧刑訴法76条、現行刑訴法54条・民訴法107条等参照)は、書類が実際に到達しなかった場合でも適用される。これは、義務を怠った者の不利益を許容してでも訴訟手続の円滑な進行を図る趣旨によるものである。
問題の所在(論点)
旧刑事訴訟法76条2項(現行法54条が準用する民事訴訟法107条等に相当)に基づく「郵便に付する送達」において、書類が実際には受取人に到達せず返戻された場合であっても、送達の効力を認め、被告人不出頭のまま審理を進めることは許されるか。
規範
被告人等が、その所在地に住居・事務所を有する者を送達受取人に選任する等の届出義務(旧刑訴法75条)を懈怠した場合、書類を郵便に付した時をもって送達したものとみなす(同76条2項)。この規定は、書類が実際に到達しない場合であっても、通常であれば到達を期待できる郵便に付した以上、送達の効力を認める趣旨である。義務懈怠者は、稀有な不利益としてこれを甘受すべきであり、訴訟手続の円滑な進行を優先させるべきである。
重要事実
被告人は、第一審において制限住居を別府市内に指定され保釈されていた。控訴審において、被告人は住居変更届や送達受取人の選任届を出さないまま別府市の住居を離れていた。裁判所は、旧刑訴法76条に基づき、公判期日の召喚状を制限住居宛に書留郵便で発送した。しかし、当該召喚状は「受取人不明」として返戻され、被告人に現実に到達することはなかった。原審は、被告人が不出頭のまま事実審理を終了し、判決を言い渡した。
あてはめ
被告人は制限住居を変更したにもかかわらず、適法な届出義務を怠っていた。そのため、裁判所が旧刑訴法76条に基づき書類を郵便に付した際、発送時をもって送達の効力が生じたとみなされる。被告人が現実に召喚状を受け取れなかったのは、自らの届出義務懈怠に起因するものであり、郵便に付した以上は「通常であれば到達するであろうこと」が期待できるため、発送後の不達という不利益は被告人が負担すべきである。したがって、被告人が公判期日に出頭しなかったことにつき正当な事由があるとはいえず、不出頭のまま審理を完結させた手続は適法である。
結論
被告人への召喚状の送達は、郵便に付した時点で有効に成立しており、不達であってもその効力は妨げられない。したがって、被告人不出頭のままなされた原判決に違法はない。
実務上の射程
送達の公定力を維持し、被告人の回避行動による訴訟の遅延を防止する実務上の基準となる。現行刑事訴訟法下においても、法54条が準用する民事訴訟法の規定(書留郵便に付する発送送達)の解釈において、同様の法理が適用される。被告人の防御権よりも訴訟経済・促進が優先される場面を画定する判例である。
事件番号: 昭和26(れ)1792 / 裁判年月日: 昭和26年10月12日 / 結論: 破棄差戻
被告人が第一審裁判所における保釈の制限住居に居住し、その後転宅又は長期間家を不在にしたことはなく、右制限住居に宛てた他の郵便物も被告人に到達しているのに、原審が同人に対するこの制限住居宛の公判期日の召喚状が郵便局集配人により「宛先番地を尋ねたるも不明、転居先不明」の事由により返戻されたことの一事をもつて、他に何等の調査…