判旨
被告人の住所が記録上明らかであるにもかかわらず、送達報告書の誤記により送達不能となったことをもって、直ちに「住居等が知れないとき」に該当するとして公示送達を行うことは違法である。
問題の所在(論点)
記録上住所が判明している被告人に対し、送達報告書の誤記による送達不能を理由として公示送達(刑事訴訟法54条、民事訴訟法110条1項1号参照)を行い、被告人不出頭のまま審理を行うことの是非。
規範
被告人に対する召喚状の公示送達を行うためには、被告人の住居、事務所及び現在地が知れないことが要件となる。記録上住所が明らかな場合には、送達報告書の形式的な不備によって送達が不能になったとしても、直ちに右要件を充足するものとは認められない。
重要事実
被告人の適正な住所は東京都台東区内の「b番地」であることが記録上明らかであった。しかし、第一回公判期日の召喚状を執行した執行吏の報告書には「c番地」と誤記されており、その誤記が原因で送達不能となった。原審は、この一回の送達不能をもって被告人の住居等が知れないものと判断し、爾後の召喚を公示送達の方法によって行い、被告人不出頭のまま審理を遂げ、有罪判決を言い渡した。
あてはめ
本件では、記録上被告人の住所(b番地)は明らかであったから、適切な宛先に送達を試みれば送達可能であったといえる。それにもかかわらず、送達報告書上の番地の誤記(c番地)という過誤に起因する送達不能のみを根拠として、被告人の住所が「知れないとき」に該当すると判断した原審の認定には合理的な根拠がない。したがって、公示送達の前提を欠くにもかかわらずこれを実施した手続は違法である。この違法な公示送達に基づき、被告人が再度の召喚を受けながら出頭しなかったものとして不出頭審理を強行したことは、正当な防御権を侵害する重大な訴訟手続の法令違反に当たる。
結論
被告人の住所が記録上明らかな場合に、誤記による送達不能をもって公示送達を行うことは違法であり、これに基づく不出頭審理による判決は破棄を免れない。
実務上の射程
本判決は旧刑事訴訟法下の事案であるが、現行法下(刑訴法54条、民訴法110条1項)でも同様の射程を有する。検察官や裁判所は記録上の住所を精査する義務を負い、単なる送達不能報告のみをもって安易に公示送達を選択することは許されないことを示している。答案上は、不出頭審理の適法性が問われる場面で、前提となる召喚の有効性を争う際の根拠として活用できる。
事件番号: 平成15(あ)279 / 裁判年月日: 平成19年4月9日 / 結論: 棄却
第1審の無罪判決に対し検察官が控訴を申し立て,控訴申立通知書の送達を受けた被告人が,控訴審裁判所に刑訴規則62条1項の住居等を届け出ず,当時居住していた場所あてに送達された書類を異議なく受領し,その後所在不明となるなどの判示の事実関係の下においては,控訴審裁判所が上記場所にあてて行った被告人に対する公判期日召喚状等の書…
事件番号: 昭和30(あ)1521 / 裁判年月日: 昭和30年11月22日 / 結論: 棄却
差押令状または捜索令状における押収または捜索すべき場所の表示は合理的に解釈してその場所を特定しうる程度に記載することを必要とするとともに、その程度の記載があれば足ると解すべきである。