一 旧刑訴法事件における控訴審の第二八回公判期日(昭和二六年六月一八日)になつて、被告人よりその二日前の日附になる医師の診断書を添え公判延期願が提出されたが、その診断書によつては必らずしも出廷不可能な疾病とは認められず、また現に被告人がその公判期日に出頭していて、右公判延期申請が却下されるや自ら裁判長忌避の申立を為し、その申立が却下されるとさらに抗告を申し立て、且つ証人の尋問途中裁判長の許可を受けないで退廷し、その後適式な公判期日の指定があつたにかかわらず、第九二回公判期日(同年七月四日)二日前の日附になる医師の診断書を差し出しただけで、公判延期願を提出することもなく、その他首肯すべき事由も示すことなく、同公判期日および第三〇回公判期日(同月六日)に出頭しなかつた場合には、裁判所が右診断書を措信せず、何ら公判手続を停止することなく、爾後被告人不出頭のままその陳述を聴かないで審判したからといつて、旧刑訴第四一〇条第八号および第一六号所定の事由があるものとすることはできない。 二 憲法第三七条第一項にいわゆる公平な裁判所の裁判とは被告人の側からみてその手続が不公平であると思われる裁判を指すものではない。
一 旧刑訴第四一〇条第八号および第一六号にあたらない事例 二 憲法第三七条第一項にいわゆる公平な裁判所の裁判の意義
旧刑訴法410条8号,旧刑訴法410条16号,旧刑訴法404条,旧刑訴法330条,旧刑訴法407条,旧刑訴法352条,刑訴規則183条,刑訴規則施行規則3条1号,憲法37条1項
判旨
被告人が正当な理由なく公判期日に出頭せず、裁判所の許可なく退廷した等の事情がある場合、不出頭のまま審判を進めても、被告人の防御権や公平な裁判を受ける権利(憲法37条1項)を侵害するものではない。
問題の所在(論点)
被告人が疾病を理由に出頭せず、また許可なく退廷した状況下で、不出頭のまま審理を続行し審判を行うことが、被告人の防御権(証人審問権等)や公平な裁判を受ける権利(憲法37条1項)を侵害し、訴訟手続上の違法となるか。
規範
被告人が、公判期日において証人に対し審問する機会を十分に与えられながら、自らの意思で公判廷に在廷せず、または正当な理由なく出頭しない場合には、被告人不在のまま審理を進めたとしても、憲法37条1項の保障する「公平な裁判所の裁判」を受ける権利や証人審問権を侵害する違法な手続には当たらない。
重要事実
被告人は、公判期日に医師の診断書を添えて公判延期を願い出たが、裁判所は出廷不可能な疾病とは認め難いとして却下した。被告人は同期日に出頭したが、裁判長忌避の申立てが却下されるや、証人尋問の途中で許可なく退廷した。その後、適式な公判期日の指定があったにもかかわらず、新たな診断書を提出したのみで、正当な理由を示すことなく連続して公判を欠席した。原審は、被告人不出頭のまま審判を行い、判決を言い渡した。
あてはめ
被告人は、当初の公判で自ら裁判長忌避を申し立てるなど訴訟遂行能力を示しており、提出された診断書の内容からも出廷不能とは認め難い。また、証人尋問中に許可なく退廷したことや、その後の期日において公判延期願の提出もせず合理的な理由なく欠席した経緯に照らせば、被告人には証人を審問する機会が十分に与えられていたといえる。このような訴訟態度に鑑みれば、裁判所が診断書を措信せず公判手続を停止しなかった判断は正当であり、不出頭のまま審判を進めたことに不公平な点はないと解される。
結論
被告人の不出頭のまま審理を進めた原審の手続に憲法違反や訴訟法違反の違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
被告人が権利を濫用して審理を遅延させる目的で不出頭を繰り返す場合など、防御の機会が実質的に保障されていたと評価できる状況下での不出頭審理の可否を判断する際の基準となる。特に証人審問権の放棄とみなせる事情の認定に活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)15 / 裁判年月日: 昭和29年7月6日 / 結論: 棄却
所論は、結論として原判決が証拠とした三名の証人の供述について被告人に審問の機会を与えなかつたこととなるから、憲法三七条二項に違反すると主張するのであるが、その前提として、右三名の証人を取り調べた原審第七回の公判期日の召喚状は、被告人に不送達となつたため、被告人は出廷することができなかつたことを理由とする。しかし記録によ…