被告人が第一審裁判所における保釈の制限住居に居住し、その後転宅又は長期間家を不在にしたことはなく、右制限住居に宛てた他の郵便物も被告人に到達しているのに、原審が同人に対するこの制限住居宛の公判期日の召喚状が郵便局集配人により「宛先番地を尋ねたるも不明、転居先不明」の事由により返戻されたことの一事をもつて、他に何等の調査をつくさず直ちに住居が不明な場合として同人に対する召喚状を公示送達したことは違法である。
被告人に対する公判期日の召喚状を公示送達したことが違法と認められる一事例
旧刑訴法78条,旧刑訴法410条8号
判旨
裁判所が被告人の住居が不明であるとして公示送達を行うためには、単に郵便集配人の報告のみに頼るのではなく、必要な調査を尽くさなければならない。
問題の所在(論点)
郵便送達が「宛先不明」で返戻された場合に、裁判所が追加の調査を行わずに直ちに公示送達を行うことは、刑事訴訟法上の公示送達の要件(住居不明)を満たすか。また、その手続により被告人不出頭のまま判決をすることは違法か。
規範
被告人の「住居、事務所及び居所が分からないとき」(刑事訴訟法54条、民事訴訟法110条1項1号)に該当し、公示送達を認めるためには、送達すべき場所が不明であることについて、裁判所が相応の調査を尽くすことを要する。郵便送達が不能となった場合であっても、その報告内容に疑義があるときや、調査の余地がある場合には、直ちに「住居不明」と断定して公示送達に付すことは許されない。
重要事実
被告人は保釈の際の制限住居(A寮c号室)に引き続き居住しており、転宅や長期不在の事実はなかった。しかし、原審が第1回公判期日の召喚状を当該住居宛に発したところ、郵便集配人が「尋ねるも不明、転居先不明」として返戻した。原審は、この報告に基づき他に何ら調査を尽くすことなく、被告人の住居が不明であるとして公示送達の決定を行い、被告人不在のまま公判を開き有罪判決を言い渡した。後の調査により、被告人の居住事実は証明され、郵便送達不能は調査粗漏または過誤によるものと判明した。
あてはめ
本件では、被告人は実際に指定の住居に居住し続けており、郵便物も「A寮」と記載するだけで到達する状態にあった。郵便集配人の返戻理由は、客観的事実に反する調査粗漏または過誤によるものと認められ、被告人を「住居不明」と扱うべき基礎を欠いていた。それにもかかわらず、原審が郵便報告のみに依拠し、被告人の居住実態について他に何ら調査を尽くさずに公示送達を実施したことは、送達の要件を欠く不適法なものである。したがって、適法な召喚がないまま被告人不出頭の状態で審理を進めた原審の手続には、重大な瑕疵があるといえる。
結論
公示送達の要件を欠く以上、原審の公判手続には判決に影響を及ぼすべき違法(旧刑訴法410条8号、現行法379条参照)がある。よって、原判決は破棄を免れない。
実務上の射程
本判決は、公示送達の要件判断における裁判所の調査義務を示したものである。答案上は、被告人の出頭権や防御権保障の観点から、公示送達の「住居不能」要件を厳格に解釈する際の根拠として活用できる。特に、形式的な送達不能報告があるだけでは不十分であり、記録上判明している連絡先や居住実態を調査すべき義務が含まれることを論じる際に有用である。
事件番号: 昭和26(れ)619 / 裁判年月日: 昭和29年2月4日 / 結論: 棄却
原審における附郵便送達が事実上到達しなかつたとしても右不送達の原因は、被告人の住居の申出の不完全なことに基因するものと認められるばかりでなく、被告人は、同年三月六日午前九時の判決言渡期日を同年二月二三日適式に通知され且つ右言渡期日に被告人自身が原審公判廷に出頭したにかかわらず、前記再度の公判期日の通知が不送達であつたこ…