判旨
不当に長い拘禁後の自白として証拠能力が否定されるか否かは、拘禁の期間だけでなく、証拠調べの遅延理由や被告人の供述変遷等の諸事情を総合して判断すべきである。第一審第5回公判での自白が逮捕から約5か月後であっても、証人の所在不明や別件の存在等の事情がある場合には、憲法38条2項にいう不当な拘禁後の自白には当たらない。
問題の所在(論点)
逮捕・勾留から約5か月が経過した後の公判廷における自白が、憲法38条2項の「不当に長く拘禁された後の自白」として、その証拠能力を否定されるべきか。
規範
憲法38条2項が禁止する「不当に長く拘禁された後の自白」に該当するか否かは、単に逮捕・勾留から自白までの期間のみをもって形式的に判断するのではなく、公判手続の経過、証拠調べの遅延をもたらした具体的要因(証人の所在不明等)、別件の有無、および自白に至る経緯(裁判官による釈明や指摘の内容等)といった諸般の事情を総合的に考慮して決すべきである。
重要事実
被告人は昭和23年11月15日に逮捕・勾留され、当初は自白したが第1回公判で否認に転じた。その後、被告人側が申請した証人の所在不明により召喚が遅滞し、また被告人の別事件も併存していた。逮捕から約5か月が経過した昭和24年4月22日の第5回公判において、裁判長から証拠との矛盾等を指摘され「言い逃れではないか」と問われた際、被告人は「お諭しの通り」として再び犯行を自白した。
あてはめ
本件では、逮捕から第5回公判まで相当の期間が経過しているが、その遅延は被告人側が申請した証人の所在不明や、別件の起訴といった客観的な事情によるものである。また、自白の契機は裁判官による証拠との矛盾の指摘という正当な訴訟指揮にあり、不当な心理的圧迫によるものとは認められない。これらの諸事情を総合すれば、当該自白が拘禁による不当な強制の結果であるとはいえず、憲法38条2項の禁じる自白には当たらないと評価される。
結論
本件自白は不当に長く拘禁された後の自白とは認められず、証拠能力を有する。したがって、これを証拠として採用した原判決に憲法違反はない。
実務上の射程
憲法38条2項(および刑訴法319条1項)の「不当に長い拘禁」の判断基準を示す。実務上は単なる期間の長さだけでなく、勾留の適法性や遅延の帰責事由、自白の任意性を阻害する具体的な状況の有無を総合考慮する際の指針となる。
事件番号: 昭和33(あ)1226 / 裁判年月日: 昭和36年3月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が氏名等を偽り、共犯者の逃走の嫌疑がある等の事情により勾留が延長された場合において、拘禁後1か月余でなされた自白や、公判期日の延期により逮捕から約80日後に反復された公判階述は、不当に長い拘禁後の自白にあたらない。 第1 事案の概要:被告人は現行犯逮捕後、氏名・住所を偽ったため、警察による身…