判旨
被告人の弁解が単に犯罪事実を否認するにとどまる場合、判示事実を認定すれば当該弁解は自ら排斥されたことが明白である。したがって、旧刑訴法360条2項(現行刑訴法335条2項に相当)が定める理由の説明として、特に弁解を排斥する消極的理由を説示する必要はない。
問題の所在(論点)
被告人が単に犯罪事実を否認する弁解を主張した場合において、裁判所は、判決書の中でその弁解を排斥するための「消極的理由」を明示的に説示する義務を負うか(現行刑訴法335条2項の「法律上の張本」の解釈)。
規範
判決において被告人の弁解に対する判断を示すべきなのは、それが「犯罪の成立を阻却すべき原因又は刑の加重減免の原因たる事実」を主張する場合(現行刑訴法335条2項参照)に限られる。単なる罪体事実の否認にとどまる主張については、犯罪事実の認定そのものによって論理的に排斥されるため、特段の理由説明を要しない。
重要事実
被告人が公訴事実(罪となるべき事実)を否認する弁解を行ったのに対し、原審は証拠に基づき犯罪事実を認定した。しかし、原判決において被告人の否認の弁解を個別に排斥する理由(消極的理由)が詳しく説示されていなかったため、弁護人はこれが訴訟法(旧刑訴法360条2項)違反にあたると主張して上告した。
あてはめ
本件被告人の弁解は、犯罪の成立を妨げる違法性阻却事由や責任阻却事由(心神喪失等)、あるいは刑の減免事由を主張するものではなく、単に「判示罪となるべき事実」を否定するものに過ぎない。原審が証拠に基づき犯罪事実を肯定した以上、その認定と相容れない被告人の弁解が退けられたことは論理的に当然明白である。ゆえに、わざわざ別個に排斥の理由を述べる必要はないといえる。
結論
被告人の主張が単なる事実否認である場合には、判決にその排斥理由を付す必要はなく、原判決に訴訟法上の違法はない。
実務上の射程
現行刑訴法335条2項の「法律上犯罪の成立を妨げる理由となる事実の主張」に対する判断義務の範囲を画定する際、単なる事実否認(アリバイ主張等を含む)は同項の対象外であり、罪となるべき事実の認定があれば足りると論述する際の根拠となる。
事件番号: 昭和26(れ)970 / 裁判年月日: 昭和26年10月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本件上告は、上告趣意が単なる事実誤認の主張や訴訟法違反の主張にとどまり、刑訴法405条の上告理由に該当しないため、棄却されるべきである。 第1 事案の概要:被告人本人は、原審の認定した事実関係に誤りがあるとして事実認定を非難する上告趣意を申し立てた。また、弁護人は原審の手続に訴訟法上の違反がある旨…