一 本件については、旧刑訴事件の上訴審における審判の特例に関する規則八条が適用されるから、控訴審判決が、証拠により罪となるべき事実を認めた理由を説明するには、証拠の標目を掲げれば足りるのである。(同規則の違法、無効でないことは、昭和二四年(れ)第二一二七号同二五年一〇月二五日大法廷判決、集四巻一〇号二一五一頁の趣旨に徴して明らかである。)そうして、証拠の標目を提げることによる証拠説示については、判文上証拠と事実との関連が明らかでなくても、記録と照らし合せて見てどの証拠にどの事実が認定されたか明らかであれば足りるとするのが、当裁判所の判例である。(昭和二五年(あ)第一〇六八号同年九月一九日第三小法廷判決、集四巻九号一六九五頁、昭和二五年(あ)第七七三号同二六年四月一七日第三小法廷判決、集五巻六九六三頁)。 二 本件各公判請求書によると、本件綿布生地の買受行為とその売渡行為とは、各々別罪を構成するものとして、起訴されているものと解すべきである。従つて、原判決が、その売渡行為につき無罪を言渡し、その買受行為につき有罪の言渡をしたからといつて、所論のように一個の公訴事実を分割し、一部有罪、一部無罪の言渡をしたものとはいえない。そしてまた、本件綿布生地の買受行為を、衣料品としての買受行為とみても、生産資材としての買受行為とみても、基本の事実関係を異にするものではないから、原審認定の事実は、起訴事実と同一性を失わず、従つて、審判の請求を受けた事件について判決せず、審判の請求を受けない事件について判決をしたものとの非難はあたらない。
一 旧刑訴事件の上訴審における審判の特例規則が適用される控訴審判決の証拠説示の方法 二 綿布生地の買受及び売渡行為が別罪として起訴されている場合に買受行為のみを有罪とする場合の判示方 三 事実の同一性ある例
旧刑訴事件の上訴審における審判の特例規則8条,旧刑訴法360条1項,旧刑訴法410条18号
判旨
判決書に公判に関与した検察官の氏名の記載を遺脱したとしても、事実上検察官が公判に立ち会い手続が適正に行われているならば、その違法は判決に影響を及ぼさない。また、認定された事実が起訴事実と基本的事実関係において共通するならば、公訴事実の同一性を失わず、訴追範囲を逸脱するものではない。
問題の所在(論点)
1. 判決書への関与検察官氏名の記載漏れは、判決を破棄すべき違法となるか。 2. 一個の公訴事実を分割して一部有罪・一部無罪とすることや、買受目的等の事実認定を一部変更することは、公訴事実の同一性を逸脱し、不告不理の原則に反するか。
規範
事件番号: 昭和25(あ)723 / 裁判年月日: 昭和25年12月28日 / 結論: 棄却
一 衣料品配給規則第五条違反の罪は、衣料品を所定の割当公文書と引換えないで譲渡する罪であるから、その譲渡行為がある毎に犯罪が成立するものといわなければならない。 二 裁判所構成法による控訴院が、同戦時特例第五条により、上告審として為した判決は、刑訴法第四〇五条第三号にいわゆる判例に当らない。 三 判例違反の主張をするの…
1. 判決書における検察官氏名の記載遺脱について:事実上検察官が公判審理に立ち会い、適正な手続が行われている場合、その形式的違法は判決に影響を及ぼさない。 2. 公訴事実の同一性について:認定事実が、当初の公訴事実に含まれる事実関係と比較して、その基本的事実関係を異にしないものであれば、公訴事実の同一性を失わず、審判対象の範囲内にある。
重要事実
被告人らは、綿布生地の買受行為および売渡行為につき起訴されたが、原審は売渡行為について無罪、買受行為について有罪とした。また、原審は買受行為の性質を衣料品としての買受か生産資材としての買受かについて、起訴事実とは異なる評価に基づき認定した可能性がある。さらに、原審の判決書には公判に関与した検察官の氏名が記載されていなかったが、記録上、全公判期日に検察官が適法に関与していた。
あてはめ
1. 記載遺脱について:記録によれば、判決言渡を含む全期日に検察官が関与しており、審理の適正は実質的に担保されている。したがって、氏名記載の欠如は形式的不備に留まり、判決の結論に影響しない。 2. 公訴事実の同一性について:買受行為と売渡行為は各々別罪として起訴されており、その一方が有罪、他方が無罪となることは分割認定ではない。また、綿布の買受目的を「衣料品」とみるか「生産資材」とみるかは、買受行為自体の基本的事実関係を左右するものではなく、起訴事実と同一の範囲内にある。
結論
1. 検察官の氏名記載漏れは、判決に影響を及ぼす違法ではない。 2. 本件の事実認定は公訴事実の同一性を失わず、適法である。
実務上の射程
訴訟手続の形式的違法(刑訴法447条等関連)が「判決に影響を及ぼすべき」ものか否かの判断基準を示す。また、公訴事実の同一性(刑訴法312条1項)に関し、態様の細部の相違が基本的事実関係に影響しない限り、訴因変更なしに認定可能であるとする実務上の準拠となる。
事件番号: 昭和25(れ)1336 / 裁判年月日: 昭和26年4月24日 / 結論: 棄却
原判決が右の調書等のみで判示行為を被告会社の業務行為と認定したことを非難しているけれども、本人の自白には犯罪事実の全部に亘つてその補強証拠を必要とするものではない(昭和二二年(れ)第一五三号同二三年六月九日最高裁判所大法廷判決参照)から、会社の業務行為であるか否かというような犯罪の一部分について本人の自白のみでこれを認…
事件番号: 昭和27(あ)1120 / 裁判年月日: 昭和28年7月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自動車揮発油の譲渡先および譲渡場所の変更を伴う訴因変更について、公訴事実の同一性の範囲内にあるとして、その適法性を認めた。 第1 事案の概要:被告人が自動車揮発油を譲渡した事案において、第一審において、当該揮発油の「譲渡先」および「譲渡場所」をそれぞれ変更する訴因変更の手続きが行われた。原判決はこ…
事件番号: 昭和25(あ)406 / 裁判年月日: 昭和25年10月17日 / 結論: 棄却
本件において第一審判決は適用法令として臨時物資需給調整法第一条、第四条、衣料品配給規則第五条を掲げているが、同規則にいわゆる衣料品とは、その第一条第二項に基いて昭和二二年九月一〇日商工省告示第五八号によつて指定されているのであるから、臨時物資需給調整法の罰則を適用するには、衣料品配給規則第五条のほかに右告示第五八号を掲…
事件番号: 昭和25(あ)551 / 裁判年月日: 昭和26年2月20日 / 結論: 棄却
控訴審判決に引用せられていない証拠(控訴審における弁論終結後検察官より提出せられた第三者の副検事に対する供述調書)は、控訴審が第一審判決の事実認定の当否を判断するについて資料に供したものとは認め得ない。