判旨
公務員が職務を異にする他の職に転任した場合であっても、当該公務員がその身分を継続している以上、旧職の職務に関して賄賂を収受する行為は刑法197条1項前段の収賄罪を構成する。
問題の所在(論点)
公務員が別の部署に転任した後、転任前の旧職の職務に関して賄賂を収受した場合に、刑法197条1項前段の収賄罪が成立するか。退職・転職後の事後収賄の問題と如何に区別されるか。
規範
収賄罪(刑法197条1項前段)の主体である「公務員」には、当該職務を現に担当している者だけでなく、過去に担当していた者も、公務員としての身分を継続したまま転任した場合には含まれる。すなわち、同一の行政組織体等の中で職務内容や所属部署が変更(転任)されたに過ぎない場合、公務員としての身分の連続性が認められるため、旧職の職務権限は依然として「その職務」としての性質を失わず、収賄罪が成立する。これは退職や転職により公務員の身分を完全に喪失した後の事後収賄罪(同法197条の3第3項)の問題とは区別される。
重要事実
被告人は、当初世田谷税務署B課C係において勤務していた。その後、被告人は公務員の身分を保持したまま、京橋税務署D課E係へと転任した。被告人は、この転任後において、前職である世田谷税務署での職務に関し、贈賄者Aから賄賂を受領した。弁護人は、本件は公務員の退職・転職後の収賄と同様に解すべきであり、単純収賄罪の成立を否定する趣旨の主張を行った。
あてはめ
本件において、被告人は世田谷税務署から京橋税務署へと転任しているが、いずれも公務員としての身分を継続している。退職や転職(公務員以外の職への就職等)とは異なり、同一の公務員としての属性を維持したまま所属部署が変更されたに過ぎない。したがって、被告人が京橋税務署の職員という公務員の身分にある以上、かつての職務である世田谷税務署での事務も「その職務」に含まれると解される。ゆえに、退職後の収賄に関する判例の法理を適用する余地はなく、現職の公務員がその職務に関して賄賂を収受したものとして、刑法197条1項前段の要件を充足する。
結論
被告人は現職の公務員であり、旧職の職務に関して賄賂を収受した以上、収賄罪が成立する。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
本判決は、公務員の身分が継続している「転任」の場合には、旧職の職務も収賄罪の対象となることを明示したものである。答案作成上は、職務権限の有無を検討する際、身分の継続性と職務の密接関連性を論拠に、事後収賄罪(197条の3第3項)ではなく単純収賄罪(197条1項)の成立を導く際の根拠となる。
事件番号: 昭和27(あ)6527 / 裁判年月日: 昭和29年4月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公務員が転職した後に、過去の職務に関して賄賂を収受した場合であっても、単純収賄罪(刑法197条1項前段)が成立する。公務員としての身分を有している限り、賄賂に係る職務を現に担当している必要はない。 第1 事案の概要:被告人は公務員の身分を有していたが、過去に担当していた職務に関し、他の部署へ転職し…