一般的職務権限を異にする他の職務に転じた公務員に対し前の職務に関して賄路を供与した場合であつても、贈賄罪が成立する。
一般的職務権限を異にする他の職務に転じた公務員に対し前の職務に関して賄路を供与することと贈賄罪の成否
刑法(昭和55年法律30号による改正前のもの)197条1項,刑法(昭和55年法律30号による改正前のもの)198条1項
判旨
公務員が一般的職務権限を異にする他の職務に転じた後に、転任前の職務に関して賄賂を供与した場合であっても、供与当時に受供与者が公務員の身分を有する限り、贈賄罪が成立する。
問題の所在(論点)
公務員がその職務権限を異にする別の職務に転じた後、過去の職務に関して賄賂を供与された場合に、なお贈賄罪の構成要件である「公務員」に対し「その職務に関し」賄賂を供与したといえるか。
規範
贈賄罪(刑法198条)は、公務員に対しその職務に関し賄賂を供与することで成立する。公務員が一般的職務権限を異にする他の職務に転じた後に前の職務に関して賄賂を供与した場合であっても、供与当時に受供与者が公務員としての身分を有する限り、贈賄罪が成立する。これは、公務の不可買収性と、それに対する社会の信頼を保護するためである。
重要事実
被告人は、兵庫県係長であったAに対し、同職務に関して現金50万円を供与した。供与当時、Aは兵庫県住宅供給公社に出向し、従前とは一般的職務権限を異にする同公社の参事兼課長としての職務に従事していた。もっとも、Aは引き続き兵庫県職員としての身分を有しており、また同公社職員は法令により公務員とみなされる立場にあった。
あてはめ
本件において、Aは賄賂供与時に出向しており、従前の係長としての一般的職務権限は有していない。しかし、供与された現金はAの過去の職務(係長としての職務)に関する対価である。また、Aは供与当時、兵庫県職員としての身分を継続して保有しており、かつみなし公務員としての地位も有していた。したがって、供与時に「公務員」の身分を有している以上、過去の職務に関する供与であっても同罪の構成要件を充足すると評価される。
結論
受供与者が供与当時に公務員の身分を有する以上、一般的職務権限を異にする他の職務に転じた後の供与であっても、贈賄罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、贈賄罪における「職務に関し」が過去の職務を含むこと、および供与時の「公務員」性の要件を緩和せずとも、身分さえ維持されていれば足りることを明示した。答案上は、退職後の供与(事後贈賄罪の検討が必要な場面)との対比で、公務員身分が継続している本件のようなケースでは、単純贈賄罪・贈賄罪が成立することを端的に論じる際に活用する。
事件番号: 昭和26(あ)2529 / 裁判年月日: 昭和28年4月25日 / 結論: 棄却
収賄罪は公務員が職務に関し賄賂を収受するによつて成立する犯罪であつて公務員が他の職務に転じた後、前の職務に関して賄賂を収受する場合であつても、いやしくも収受の当時において公務員である以上は収賄罪はそこに成立し、賄賂に関する職務を現に担任することは収賄罪の要件でないと解するを相当とする。