公務員の転職後、前の職務に関し賄賂を供与することは贈賄罪を構成する。
公務員の転職後、前の職務に関し賄賂を供与することは贈賄罪を構成するか
刑法198条
判旨
贈賄罪(刑法198条)は、公務員が過去の職務に関して賄賂を供与された場合、供与時点で別の職務に転じていたとしても、公務員としての身分を有している限り成立する。公務員が賄賂に係る具体的な職務を現在担任していることは、贈賄罪の成立要件ではない。
問題の所在(論点)
刑法198条の贈賄罪において、供与の対象となる職務が、供与時点における公務員の担当職務(具体的職務権限)に含まれている必要があるか。公務員が転任し、過去の職務に関して賄賂を受け取った場合の罪責が問題となる。
規範
贈賄罪は、公務員に対して「その職務に関し」賄賂を供与することで成立する。公務員が別の職務に転じた後、前の職務に関して賄賂を供与する場合であっても、供与の当時において公務員である以上は、同罪が成立する。したがって、公務員が賄賂に関する職務を現に担任していることは要件とならない。
重要事実
被告人は、公務員であるAに対し、Aの過去の職務に関する謝礼等として賄賂を供与した。しかし、当該供与の時点でAは既に別の職務に転任しており、賄賂の対象となった職務を現に担当してはいなかった。弁護人は、転任により職務権限が失われている以上、贈賄罪は成立しないと主張して上告した。
あてはめ
本件において、Aは賄賂供与の当時、転任はしていたものの依然として公務員としての資格(身分)を保持していた。贈賄罪の保護法益は職務の不可買収性や社会の信頼にあるところ、たとえ現に当該職務を担任していなくても、公務員の身分を有する者に対して過去の職務の対価を供与する行為は、職務の公正に対する社会の信頼を損なうものといえる。したがって、Aが過去に担当した職務に関し、公務員の身分を有するAに賄賂を供与した被告人の行為には、贈賄罪が成立すると解するのが相当である。
結論
公務員が転任後であっても、公務員たる資格を有する限り、前の職務に関する賄賂の供与には贈賄罪が成立する。
実務上の射程
公務員の職務権限の継続性が問題となる場面で活用できる。収賄側の受託収賄罪(197条1項後段)や事前収賄罪(197条2項)等の特殊な類型を除き、一般的な贈賄罪においては、供与時における具体的職務権限の有無よりも、公務員身分の有無と「職務関連性」が重視されることを示す射程を持つ。
事件番号: 昭和26(あ)2529 / 裁判年月日: 昭和28年4月25日 / 結論: 棄却
収賄罪は公務員が職務に関し賄賂を収受するによつて成立する犯罪であつて公務員が他の職務に転じた後、前の職務に関して賄賂を収受する場合であつても、いやしくも収受の当時において公務員である以上は収賄罪はそこに成立し、賄賂に関する職務を現に担任することは収賄罪の要件でないと解するを相当とする。