經濟監視官補たる被告人に専賣法違反被疑者を取調べる職務權限ありや、從つて本件行爲が刑法第一九七條第一項の「其職務ニ關シ賄賂ヲ收受シ」たことになるか、ということが問題となり得る、經濟監視官補は昭和二二年勅令第二〇四號第二條より「都府縣等臨時職員等設置制」に第一條ノ六として追加されたものであつて、「經濟統制ニ伴フ警察ニ關スル事務ニ從事スル」ことになつており、原判決の事實摘示にも被告人は「油木警察署に勤務し經濟違反の檢舉取調の職務を擔當していた」とある。ところが原審相被告人Aは専賣法違反被疑者として被告人によつて取調べられた際賄賂を供與し被告人がこれを收受したというのであつて、専賣法は經濟違反統制に關する犯罪中に含まれぬと解されるから被告人は「其職務ニ關シ賄賂を收受シ」たものとは云えないのではないか、という疑を生ずる。しかしながら刑法第一九七條にいわゆる「其職務ニ關シ」をあまりに狭く解することは、收賄罪罰則の運用上いかがと思われるのみならず、本件においては、被告人はAを「同人がその生産に係る葉煙草三貫匁をBに代金三千圓で賣却した嫌疑で」取調べたのであつて、自然、物價統制令第九條の二その他の經濟統制令違反問題ともなり得るべきものであつたから、その取調は被告人の「職務ニ關シ」たと云い得るべく原判決がこれを刑法第一九七條を以て斷罪したもの、違法ではないと考えられる。
經濟監視官補の職務權限―經濟監視官補が専賣法違反被事件について賄賂を收受した場合と刑法第一九七條
刑法197條,都道府縣等職員等設置制1條の6,物価統制令9條の2
判旨
刑法197条1項の「職務」とは、公務員がその法律上の職務権限に属する事務そのものに限られず、これと密接な関係を有する事務も含まれる。専売法違反の取調べであっても、性質上物価統制令違反等の経済統制法令違反の問題となり得る場合には、経済監視官補の職務に関すると解するのが相当である。
問題の所在(論点)
経済監視官補が専売法違反被疑者を取調べ、賄賂を収受した行為が、刑法197条1項の「その職務に関し」賄賂を収受したといえるか。本来の職務権限(経済統制事務)に含まれない可能性のある他法令違反の取調べが、職務関連性を有するか。
規範
刑法197条にいう「職務に関し」とは、公務員の一般的職務権限に属する事務だけでなく、これと密接な関係を有する事務をも含む。これを狭く解することは収賄罪の処罰規定の趣旨に反するため、当該公務員の担当事務から合理的に派生し得る範囲も職務に含まれると解すべきである。
重要事実
経済監視官補として油木警察署に勤務し、経済違反の検挙取調を担当していた被告人が、専売法違反(葉煙草の無許可売却)の嫌疑でAを取調べた際、賄賂を収受した。経済監視官補の本来の職務は「経済統制に伴う警察に関する事務」であり、専売法違反そのものは経済統制に関する犯罪には含まれない可能性があった。
あてはめ
被告人の本来の職務は経済統制事務であるが、本件で取調べ対象となった葉煙草の売却行為は、自然、物価統制令9条の2その他の経済統制法令違反の問題ともなり得る性質を有していた。そうであれば、当該取調べは経済監視官補の本来の職務と密接な関連性を有するものといえる。したがって、専売法違反の取調べという形式であっても、実質的には被告人の「職務に関し」行われたものと評価できる。
結論
被告人の行為は、刑法197条1項の「職務に関し」賄賂を収受した行為に当たり、単純収賄罪が成立する。
実務上の射程
本判決は「職務」の範囲を一般的職務権限のみならず、それと密接な関係がある事務にまで広げた初期の重要判例である。答案上は、職務権限の有無が微妙な事例において、当該事務が本来の担当事務から派生する可能性や密接性を具体的事実(本件では物価統制令違反への発展可能性)から認定する際の論拠として使用する。
事件番号: 昭和24(れ)61 / 裁判年月日: 昭和27年4月17日 / 結論: 棄却
税務署直税課第一係所属職員として管内の納税義務者に対する所得税の賦課、減免に関する事務に従う法令上の職務権限を有する者が、その職務に関し納税者から賄賂を収受した以上、たとえその納税者が当該年度において係主管者から分担を命ぜられた区域及び業種外のものであつても、収賄罪が成立する。