判旨
法律上の義務に従うことが事実上困難であっても、客観的に期待可能性がないと認められない限り、責任は阻却されない。また、加工の程度が低い製品を規制対象外と誤信したとしても、それが当然に犯意を阻却する事由とはならない。
問題の所在(論点)
1. 規制法令に抵触する状況において、期待可能性がないとして責任が阻却されるか。2. 製品が規制対象外であると誤信した場合に、犯意(故意)が阻却されるか。
規範
刑法上の責任阻却事由としての期待可能性の欠如は、行為当時の具体的な状況に照らし、適法行為を期待することが客観的に不可能または著しく困難である場合に認められる。また、事実の錯誤(犯意の阻却)については、行為者が認識した事実が罪とならない事実である場合に限られるが、規制対象の解釈に関する誤解は当然にはこれに当たらない。
重要事実
被告人が、塩乾(しおかれ)魚介類の取引に関して、当該行為が法令の規制対象外であると信じて行った事案。被告人は、当該製品が「高度の加工」を施したものであるから規制の対象外であり、適法な行為を期待することは不可能であった(期待可能性の欠如)、あるいは規制対象外との認識であったため犯意がないと主張した。
あてはめ
原判決の判断によれば、被告人の置かれた状況は期待可能性がないと認めるに足りるものではない。また、証拠によれば、当該製品(塩乾)は軽度の加工にとどまり、被告人が主張するような高度の加工品ではない。したがって、被告人が当該行為を適法と誤信したとしても、その誤認は客観的事実と乖離しており、犯意を阻却する正当な理由があるとはいえない。以上より、適法行為の期待可能性および犯意の阻却に関する主張はいずれも採用できない。
結論
期待可能性の欠如は認められず、また規制対象外であるとの誤信も犯意を阻却しないため、有罪とする原判決は正当である。
実務上の射程
期待可能性の存否が争われる事案において、単なる事実上の困難さや独自の法令解釈に基づく誤信では責任は阻却されないことを示す。答案上では、期待可能性の有無を判断する際の「客観的状況」の考慮の厳格さや、法律の錯誤に類する事案での故意阻却の否定という文脈で活用できる。
事件番号: 昭和26(れ)872 / 裁判年月日: 昭和26年9月20日 / 結論: 棄却
犯意の成立には違法の認識を必要としない。法律の不知又は誤解があつたとしても違法な行為をしたことになるから刑責を負うべきである。