本件は期待可能性を欠き責任を阻却し無罪である旨の所論は、原審でその主張がなく従つて原判決もその点について何等判断を与えていなのである。しかのみならず、所論摘示の事情(割当てられた原料は公定価格で買えず製品の公定価格は生産原価を割るので原料の出目で作つた製品を公定価格で売らなければ立ち行かない等)は、いわば貧困で止むなく窃盗をした場合の貧困という状態のように、本件犯罪の主観的責任に関係のない単なる犯罪発生原因上に存する憫諒すべき客観的な情状たるに過ぎないものと認められる。
犯罪発生原因上に存する憫諒すべき客観的な情状と期待可能性の有無
旧刑訴法360条2項,刑法36条
判旨
期待可能性の欠如による責任阻却が認められるためには、単なる犯罪発生原因上の客観的な情状にとどまらず、適法行為を期待し得ない特殊な事情が必要である。
問題の所在(論点)
犯罪の発生原因となった客観的な困窮等の情状がある場合に、期待可能性の欠如を理由として責任阻却が認められるか。
規範
期待可能性の欠如を理由に責任が阻却されるためには、行為時の状況に照らして、行為者が当該違法行為を避けて適法に行為することが事実上不可能または著しく困難であったといえる特別な事情を要する。単なる経済的困窮や、犯罪の発生原因となった客観的・同情的な事情(いわゆる憫諒すべき情状)があるだけでは、直ちに期待可能性が否定されるものではない。
重要事実
被告人A株式会社および同B(被告人ら)は、物価統制令違反等の罪に問われた。弁護人は上告審において、被告人らが置かれていた状況は「期待可能性を欠き責任を阻却し無罪」であるべき事情があったと主張した。その具体的な事情は、いわば「貧困で止むなく窃盗をした場合の貧困という状態」に類する、犯罪発生の原因となった客観的な情状であった。
あてはめ
被告人側が主張する事情は、本件犯罪の主観的責任そのものに直接関わるものではなく、単なる犯罪発生の原因に存する「憫諒すべき客観的な情状」にすぎないと解される。これは、生活苦ゆえに窃盗を犯した際の「貧困」という状態と同様であり、法が期待する適法行為への意思決定を根本から妨げるほどの特殊な事情とは認められない。したがって、適法行為に出ることを期待できない状況にあったとはいえず、責任は阻却されない。
結論
期待可能性を欠くとは認められず、被告人らの責任は阻却されない。したがって、本件各上告は棄却される。
実務上の射程
期待可能性の議論において、単なる「動機の同情性(情状)」と「責任阻却事由としての期待不可能性」を区別する際の指標となる。実務上、経済的困窮などを理由とする責任阻却の主張に対しては、本判決の論理を援用し、それが単なる犯罪発生原因上の情状に過ぎないとして否定的に解釈される傾向にある。
事件番号: 昭和26(れ)2190 / 裁判年月日: 昭和27年2月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律上の義務に従うことが事実上困難であっても、客観的に期待可能性がないと認められない限り、責任は阻却されない。また、加工の程度が低い製品を規制対象外と誤信したとしても、それが当然に犯意を阻却する事由とはならない。 第1 事案の概要:被告人が、塩乾(しおかれ)魚介類の取引に関して、当該行為が法令の規…