一 物価統制令違反の犯罪行為についてはその犯意の成立について違法の認識を必要としないものと解すべきである。 二 物価統制令にいう価格等の統制額を超過して取引することの許容されるいわゆる法定の除外の事由ある場合とは、同令第三条第一項但書及び第八条所定の場合に限るものと解すべきである。従つて本件取引について、所論の宮城縣防犯課長及び同水産課長から統制額超過の默認があつたとの事由の如きは右にいわゆる法定の除外事由ある場合にあたらないこと明らかである。
一 物価統制令違反罪の犯意の成立には違法の認識を必要とするか 二 縣防犯課長及び同水産課長の統制額を超過した収引行為の默認は物価統制令第三条第一項但書所定の法定の除外事由にあたるか
刑決38条,物価統制令3条,物価統制令8条
判旨
物価統制令違反における犯意の成立に違法の認識は不要であり、行政当局の黙認があるとの誤信は単なる法律の不知にすぎず、罪責を左右しない。また、行為後の統制価格指定の廃止は「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき」には該当しない。
問題の所在(論点)
1. 物価統制令違反の罪において、違法の認識は故意(犯意)の成立要件となるか。2. 行政当局による黙認があるとの誤信は、故意を阻却する事実の錯誤か、それとも単なる法律の不知か。3. 統制価格を指定する告示の廃止は、刑事訴訟法上の「法令による刑の廃止」に該当するか。
規範
1. 故意(犯意)の成立には、自己の行為が法に触れることの認識(違法の認識)を必要としない。2. 特定の行為を禁止する法規の不知や、行政当局の黙認がある等の誤信は、単なる「刑罰法規の不知」にすぎず、故意を阻却しない。3. 物価統制令に基づく告示の廃止は、事実上の変更にすぎず、刑訴法上の「法令による刑の廃止」には当たらない。
重要事実
被告人Aは、物価統制令が定める統制額を超過して取引を行ったとして、同令違反に問われた。これに対し被告人側は、宮城県の防犯課長および水産課長から統制額超過の黙認があったため、これが法定の除外事由(同令3条1項但書等)に該当すると誤信していたと主張した。また、犯行後に当該統制額を指定した告示が廃止されたため、免訴されるべきであるとも主張した。
あてはめ
1. 物価統制令違反の罪においては、犯意の成立に違法の認識を必要としない。2. 県の課長らが超過価格を黙認していたとしても、それは法令上の除外事由には当たらない。被告人がこれを適法と誤信したとしても、それは刑罰法規そのものの解釈・存在に関する誤解であり、単なる「法律の不知」であって、故意を阻却する事情にはならない。3. 指定告示の廃止は経済情勢の変遷に伴う事実上の変更であり、法令自体の改廃による刑の廃止には該当しない。
結論
被告人の上告を棄却する。違法の認識は不要であり、行政当局の黙認という事情があっても被告人の罪責は左右されない。また、告示の廃止による免訴も認められない。
実務上の射程
昭和20年代の古い判例ではあるが、違法の認識の要否および法律の錯誤(刑法38条3項)に関する伝統的な判例理論(不要説)を端的に示す。行政法規違反において「当局が認めていた」という主張が、故意を阻却する「事実の錯誤」ではなく「法律の不知」として排斥される典型例として、答案上のあてはめで参照しうる。
事件番号: 昭和26(れ)872 / 裁判年月日: 昭和26年9月20日 / 結論: 棄却
犯意の成立には違法の認識を必要としない。法律の不知又は誤解があつたとしても違法な行為をしたことになるから刑責を負うべきである。