所論は被告人は当時麻の配給に関する統制が撤廃されたので、価格の統制も廃止になつたものと確信していたから犯意がなかつたと主張するものであるが、仮りに所論のような事実があつたとしても、右は刑法第三八条三項によつて、犯意なしとすることを得ないものであるから論旨は採用しがたい(昭和二三年(れ)二〇二号同年七月十一日大法廷判決、判例集二巻八号、昭和二四年(れ)第二〇〇六年同二六年一月三〇日第三小法廷判決、判例集五巻二号参照)。
犯意の成立と違法の認識
刑法38条3項
判旨
法令の改廃により価格の統制が廃止されたと誤信していても、その誤信は法律の錯誤にすぎず、刑法38条3項により故意(犯意)を否定する理由にはならない。
問題の所在(論点)
特定の法令に基づく統制が廃止されたと誤信して禁止行為に及んだ場合、刑法38条3項により「罪を犯す意思がない」といえるか。すなわち、規制の存否に関する誤信が故意を阻却するか。
規範
法律を解釈し、自己の行為が法的に許容されると誤信することは「法律の錯誤」にあたる。刑法38条3項に基づき、法律を知らなかったとしても罪を犯す意思(故意)がなかったとすることはできない。したがって、適用される罰則や規制の存否に関する誤解は、故意を阻却する事情とはならない。
重要事実
被告人は、当時麻の配給に関する統制が撤廃された事実を受け、これに伴って価格に関する価格統制も廃止されたものと確信し、価格制限を超える価格で取引を行った。被告人側は、規制が撤廃されたと確信していた以上、犯意(故意)がなかったと主張して上告した。
あてはめ
被告人の主張は、麻の価格統制が廃止されたという「法の存在・適用範囲」に関する誤解である。仮に被告人が価格統制はもはや存在しないと確信していたとしても、それは法律の解釈を誤り、自らの行為が適法であると誤認したにすぎない。これは事実の錯誤(構成要件的故意の欠如)ではなく、法の不知・法律の錯誤に該当するため、刑法38条3項の規定により、故意の成立は妨げられないと解される。
結論
被告人の誤信は法律の錯誤にあたり、故意は否定されない。したがって、有罪とした原判決に憲法違反や法令の解釈誤りはない。
実務上の射程
本判決は「法の不知は弁解にならない」という原則を厳格に適用している。司法試験においては、行政刑法等の複雑な規制を前提とする事案で、被告人が「適法だと思っていた」と主張する場合の検討に用いる。判例の立場を維持する限り、違法性の意識の可能性すら否定されるような特段の事情がない限り、故意は阻却されないとする論理展開に適している。
事件番号: 昭和26(れ)700 / 裁判年月日: 昭和26年8月9日 / 結論: 棄却
一 被告人等の犯意は被告人等の買受けた本件物質の価格が公定価格を超えたものであることを被告人等において認識するによつて成立し、さらにその違法であることの認識を必要としないことは当裁判所昭和二四年(れ)第二〇〇六号第二六年一月三〇日第三小法廷判決(判例集五巻二号三七問頁)の趣旨に徴して明らかなところである。 二 原審にお…