判旨
物価統制令違反の罪の成立において、取引の相手方が特定の公的な機関や代行者であると誤信していたとしても、価格統制法規に違反することの認識がある以上、その犯罪の成否を左右しない。
問題の所在(論点)
物価統制令違反の罪において、(1)取引相手の公的な身分に関する誤信がある場合や、(2)いわゆる協力価格による取引である場合に、故意または違法性が阻却されるか。
規範
行政統制法規違反の罪における故意(構成要件的故意)は、客観的構成要件に該当する事実の認識があれば足りる。また、取引の相手方の公的身分等の属性に関する誤認や、いわゆる「協力価格」による取引であったという事情は、行為者が統制価格を超える価格での取引であるという価格統制法規違反の認識を有している場合には、違法性を阻却せず、犯罪の成立を妨げない。
重要事実
被告人は、物価統制令3条が禁止する統制額を超える価格で取引を行ったとして、同令違反に問われた。被告人は、取引に際して出荷伝票や輸送証明書を得ることで検挙を免れるため、帳簿上は出荷・荷受機関を通じたかのように装っていた。被告人は、相手方が配給規則上の「荷受機関」やその代行者であると信じていたこと、および「協力価格」による取引であったことから、違法性の認識や犯罪の故意がなかったと主張して上告した。
あてはめ
被告人らは、輸送途中の検挙を免れる目的で意図的に帳簿上の仮装を行っており、価格統制法規に違反する取引であることの認識を有していたことが認められる。相手方が配給規則上の「荷受機関」であると信じていたとしても、それは統制価格を超えて取引を行うという本質的な事実の認識を左右するものではない。また、価格統制法規違反の認識がある以上、協力価格であることをもって直ちに違法性が阻却されるとはいえない。
結論
被告人に価格統制法規違反の認識が認められる以上、相手方の属性に関する誤信等の事情があっても物価統制令違反の罪は成立する。
実務上の射程
行政刑法における故意の対象と錯誤の限界を示した判例である。統制価格の存在という規範的事実の認識がある場合に、相手方の身分等の付随的状況の誤認が故意を阻却しないことを確認する際に活用できる。
事件番号: 昭和26(れ)872 / 裁判年月日: 昭和26年9月20日 / 結論: 棄却
犯意の成立には違法の認識を必要としない。法律の不知又は誤解があつたとしても違法な行為をしたことになるから刑責を負うべきである。