原審における第二回以後の公判期日が被告人の弁護人静永世策に通知せられなかつたことは所論のとおりである。しかしながら右は所論のように違憲の問題として採り上げるべきではないのみならず、同弁護人は第一回公判期日の呼出を受けながら正当の理由もなく右期日たる昭和二六年二月五日原審の公判に出頭せず、被告人は、別に弁護人安達勝清、藤田三郎を選任したため、裁判所は第二回以後の期日については被告人及び右両弁護人にのみ通知し、右各期日に出頭した被告人等は右弁護人静永世策に通知のなかつた点について何等の異議を述べることもなく原審の審理を終結するに至つた経過は一件記録に徴して明らかである。このような原裁判所の手落ちは、旧刑訴の規定に照し、違法たるを免れないけれども、事情右の如き次第である以上、原判決を破棄しなければ、著しく正義に反することは考えられない。
原判決を破棄しなければ著しく正義に反することにならない例−公判期日が弁護人に通知されなかつた場合
旧刑訴法320条,旧刑訴法410条11号,刑訴法411条
判旨
弁護人の一部に対して公判期日の通知を欠いた手続上の違法がある場合でも、他の弁護人が出頭して十分な弁護活動を行い、被告人の守備権が実質的に侵害されていないときは、判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない。
問題の所在(論点)
弁護人の一部に対して公判期日の通知を欠いたまま審理を進めた手続上の違法が、刑事訴訟法上の破棄事由(著しく正義に反すると認められる場合)に該当するか。
規範
公判期日の通知を怠ることは手続上の違法であるが、直ちに判決の破棄事由となるわけではない。強制弁護事件等において、通知を受けた他の弁護人が出頭して十分に弁護の任に当たっており、被告人の弁護に欠けるところがないと認められる(実質的な弁護権の保障が図られている)場合には、当該違法は「判決を破棄しなければ著しく正義に反する」事由には当たらない。
重要事実
事件番号: 昭和25(あ)3333 / 裁判年月日: 昭和26年6月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴趣意書の提出期間経過後に弁護人が選任されたため提出ができなかった場合でも、被告人自身に照会への回答を怠るなどの帰責事由があれば、当該不提出を違法とはいえない。 第1 事案の概要:被告人は、原審において裁判所から早期に弁護人選任の要否に関する照会を受けていた。しかし、被告人はこの回答を怠り、控訴…
被告人は3名の弁護人を選任していたが、原裁判所は第2回以後の公判期日について、そのうち1名の弁護人(静永)に対してのみ通知を行わなかった。当該弁護人は第1回期日の呼出を受けながら正当な理由なく欠席しており、その後も自ら期日を確認する等の措置を講じなかった。一方で、他の2名の弁護人には毎回通知がなされ、各期日に出頭して十分な弁護活動を行っていた。被告人および出頭した弁護人らは、通知漏れについて異議を述べることなく審理が終結した。
あてはめ
本件は強制弁護事件であるが、通知を受けた他の2名の弁護人が毎回期日に出頭し、十分に弁護の任に当たっている。通知を受けなかった弁護人は、第1回期日に正当な理由なく欠席しており、弁護人として期日を問い合わせる等の義務を尽くせば容易に知り得た立場にあった。また、被告人らも審理中に通知の欠如について異議を述べていない。以上から、実質的には被告人の弁護に欠けるところはなかったと評価される。
結論
原裁判所の手続きに違法はあるものの、被告人の弁護権が実質的に侵害されたとはいえず、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
刑事訴訟法における「判決に影響を及ぼすべき法令の違反」や「著しく正義に反する場合」の判断において、形式的な手続違背だけでなく、被告人の権利保護(弁護権の行使)が実質的に図られていたかという観点から射程を限定する際の論拠として有用である。
事件番号: 昭和26(れ)521 / 裁判年月日: 昭和27年3月28日 / 結論: 棄却
旧刑訴法事件の控訴審において、必要的弁護事件につき、弁護人の立会なしに審理判決したときは、刑訴第四一一条第一号に該当する。
事件番号: 昭和26(れ)177 / 裁判年月日: 昭和26年5月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】旧刑事訴訟法下において、弁護人が主張した上告趣意が単なる量刑不当に帰する場合、それは適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人の弁護人が上告を申し立て、上告趣意書を提出した。しかし、その主張内容は実質的に原判決の量刑が重すぎるという不当性を訴えるものであった。 第2 問題の所在(論点…
事件番号: 昭和26(れ)1421 / 裁判年月日: 昭和26年9月25日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】必要的弁護事件において、弁護人が出頭しないまま被告人質問や証拠調べ等の実質的な審理を行うことは、訴訟手続の法令違反であり、判決の破棄事由となる。 第1 事案の概要:被告人は偽造公文書行使及び食糧緊急措置令違反の罪で起訴された。本件は短期1年以上の懲役にあたる必要的弁護事件であったが、控訴審の第2回…