判旨
判決文の記載において、特定の判示事項の前に主体が被告人であることを明記している場合には、当該判示事項における行為者の判示を欠くものとはいえず、判決に理由不備の違法はない。
問題の所在(論点)
判決文において、個別の犯罪事実の説示の中に行為者の氏名や「被告人」といった主語が逐一記載されていない場合に、判決に理由不備(行為者の判示漏れ)の違法が認められるか。
規範
判決書において、個別の犯罪事実の判示に際し、文脈上あらかじめ主体が被告人であることを明示していれば、各行為ごとに改めて主体を明示しなくとも、行為者を判示しているものと認められる。したがって、判決全体として行為者の特定が明確であれば、理由不備(刑訴法378条4号参照)の違法は認められない。
重要事実
被告人が刑事被告人として起訴された事案において、原判決の判示事項に、行為者が被告人である旨の明示を欠いている部分があるとして、弁護人が理由不備等の違法を主張し上告した。判決文によれば、問題とされた判示部分の前の段階で、主体が被告人であることは既に明記されていた。
あてはめ
本件において、論旨が指摘する判示箇所の前段では、主体が被告人であることが既に明記されている。このような判示形式をとっている以上、当該箇所において改めて被告人の所為である旨を繰り返さずとも、行為者を判示していないことにはならない。また、当該犯行が被告人の所為であるとの認定は、被告人の第一審公判における供述等の証拠に照らして合理的であり、経験則に反する点も認められない。
結論
原判決に行為者を判示していないとの違法や理由不備の違法は認められず、上告を棄却する。
実務上の射程
判決書の「罪となるべき事実」の記載において、冒頭で「被告人は〜」と主語を立てた後に一連の事実を記述する一般的な形式を肯定する。司法試験の起案において事実摘示を行う際にも、文脈上主体が明らかであれば、逐一主語を反復せずとも理由不備の問題は生じないことを示唆する。
事件番号: 昭和26(あ)2324 / 裁判年月日: 昭和28年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】数個の犯罪事実について数多の証拠標目を一括して掲げて証拠説明をしても、判決文と記録を照合してどの証拠でどの事実を認めたかが明白である限り、違法ではない。 第1 事案の概要:被告人の数個の犯罪事実を認定した第一審判決に対し、弁護人は、複数の事実認定について採用証拠の区別を示さず漫然と証拠の標目を一括…