詐欺罪において財物の所有者は、他人なることが明らかであれば必ずしも具体的に何人であるかを判示しなくとも犯罪構成要件に欠けるところはない。原判決においては東京都江東区a町b丁目c番地食糧公団東京都B支所C配給所における係員と表示してあるので、且つ証拠説明によれば被害者がAであることがわかるから、詐欺罪の相手方の表示としては適法である。
詐欺罪において財物の所有者を具体的に判示することの要否
刑法246条,旧刑訴法360条1項
判旨
詐欺罪において、財物の所有者が他人であることが明らかであれば、必ずしも具体的に誰であるかを判示する必要はない。また、主要食糧の不正受配に関して刑法上の詐欺罪が成立する場合は、特別法ではなく刑法246条が適用される。
問題の所在(論点)
1. 詐欺罪の成立において、財物の所有者や被害者を具体的に特定して判示する必要があるか。 2. 主要食糧の不正受配について、特別法(食糧緊急措置令)ではなく刑法上の詐欺罪を適用できるか。
規範
詐欺罪(刑法246条)の構成要件として、客体たる財物の所有者は「他人」であることが明らかであれば足り、必ずしも具体的な氏名を特定して判示することを要しない。また、特別法(食糧緊急措置令等)の対象となる行為であっても、詐欺罪の構成要件を充足する限り、刑法上の詐欺罪が成立し、同条によって処罰される。
重要事実
被告人は、食糧公団東京都支所の配給所における係員を装い、主要食糧を不正に受配した。原判決では、詐欺の相手方(被害者)を「東京都江東区所在の配給所における係員」と表示しており、証拠によれば被害者が「A」であることが判明していたが、被告人側は被害者の特定が不十分であること、および特別法である食糧緊急措置令10条を適用すべきであることを理由に上告した。
あてはめ
1. 本件では、財物の所有者が被告人以外の「他人」であることは明らかである。原判決において、配給所の場所および「係員」という属性が表示されており、証拠上も被害者が特定されている以上、詐欺罪の相手方の表示として法的に十分である。 2. 主要食糧の不正受配であっても、その行為態様が詐欺罪の構成要件に該当する場合には、刑法246条という正条によって処罰すべきであり、特別法が優先して刑法の適用を排除するものではない。
結論
詐欺罪における被害者の特定は、他人性が明らかであれば足りる。主要食糧の不正受配についても、詐欺罪が成立する以上、刑法246条が適用される。
実務上の射程
被害者の特定に関する判示事項は、民事訴訟のような当事者対立構造の厳密さよりも、処罰対象となる事実の同一性を重視する刑事訴訟の基本的立場を示す。答案上では、被害者が不明な場合や多人数にわたる場合の詐欺罪の訴因特定・認定の根拠として利用できる。
事件番号: 昭和25(れ)1652 / 裁判年月日: 昭和26年3月16日 / 結論: 棄却
主要食糧に関し、原判決認定のような不正受配の行為は刑法詐欺罪を構成し、所論食糧緊急措置令第一〇条違反をもつて問擬すべきものでないことは、既に、当裁判所の判例とするところである(昭和二三年(れ)第三二九号同年七月一五日第一小法廷判決、判例集二巻八号九〇三頁以下)。又それが公定価格を支払つて受配しても詐欺罪の成立を妨げるも…