判旨
控訴審において、被告人が黙秘した際に一審公判調書を読み聞かせたところ、その内容を肯定した場合には、これを適法な自白として採証できる。また、判決書における事実摘示に不備があっても、他の証拠関係からその意味内容が客観的に特定でき、認定結論に誤りがなければ、判決を破棄すべき理由の不備や齟齬には当たらない。
問題の所在(論点)
1. 被告人が公判で沈黙した後に一審調書の内容を肯定した場合、これを「自白」として採証できるか。 2. 原料の量と完成した酒の量の計算が判示上一致しない場合、判決に理由不備または理由の齟齬があるといえるか。
規範
1. 証拠の採証:公判における被告人の供述が、前審の公判調書の内容を肯定する趣旨であると認められる場合には、実質的な自白として証拠能力を有する。 2. 判決の理由不備・齟齬:事実摘示に精緻さを欠く部分があったとしても、証拠(差押目録、検定書、告発書等)の記載に照らして合理的解釈が可能であり、認定された犯罪事実に誤りがなければ、判決を破棄すべき違法とはならない。
重要事実
被告人は酒税法違反で起訴された。原審(控訴審)の公判において、被告人が当初沈黙したため、裁判所が第一審公判調書を読み聞かせたところ、被告人は「そのとおり相違ない」と答えた。また、原判決は「3回にわたり、麹5升、米1斗、水1斗5升を原料として4斗樽6個に仕込み、濁酒合計1石8斗を密造した」と認定したが、1回の仕込み原料の分量から計算すると1石8斗には及ばないという理由で、理由齟齬が主張された。
あてはめ
1. 自白について:被告人は冒頭手続で公訴事実に相違ない旨述べており、その後黙秘した際に一審調書の読み聞かせを受けてこれを肯定した。この一連の態度は、一審での供述内容を肯定した意味に解すべきであり、原判決がこれを自白として採証したことは正当である。 2. 理由の不備・齟齬について:確かに原料の割合からは1仕込み3斗程度しか製造できないが、判決が「4斗樽6個」を用いたと指摘している点に注目すべきである。これに証拠である告発書の記載等を加味すれば、判示の趣旨は「3回にわたり、毎回2仕込みずつ行った」ものと合理的に解釈できる。したがって、結論としての数量認定(1石8斗)に誤りはなく、破棄すべき違法はない。
結論
被告人の公判供述を自白として採証した原判決は正当であり、また事実摘示に周到を欠く点があっても、客観的証拠に基づき合理的に解釈可能である以上、理由不備等の違法はない。
事件番号: 昭和26(あ)3454 / 裁判年月日: 昭和28年6月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自白の補強証拠については、実質的に自白の真実性を保障するに足りる証拠があれば足り、必ずしも犯罪事実の全部を直接証明するものである必要はない。 第1 事案の概要:被告人は複数の罪に問われ、検察官に対する供述調書において自白を行っていた。弁護人は、当該自白の任意性を争うとともに、第一審判決が挙げた証拠…
実務上の射程
公判調書の読み聞かせによる自白の再確認という手続的有効性を認めた事例である。また、判決書の事実適示における多少の計算上の不整合や説明不足については、証拠関係から補完可能な範囲であれば、上告理由としての「理由不備・齟齬」には当たらないとする実務上の限界を示している。
事件番号: 昭和26(あ)2660 / 裁判年月日: 昭和28年4月14日 / 結論: 棄却
原判決が第一審判決において被告人の判示行為を一罪として処断したことは正当であると判断したのに対し、これを数罪として処断すべきであると主張するものであつて、それが被告人に不利益な主張であることは明かであるから、上告理由としてこれを主張することは許されない。
事件番号: 昭和26(れ)1801 / 裁判年月日: 昭和26年11月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自白の補強証拠は、自白と相まって犯罪事実を認定し得るものであれば足り、自白の各部分について個別に必要とされるものではない。また、迅速な裁判の欠如は、判決に影響を及ぼさないことが明らかであれば原判決の破棄理由とはならない。 第1 事案の概要:被告人Aは有罪判決を受けたが、原判決の事実認定が被告人の自…