原判決が第一審判決において被告人の判示行為を一罪として処断したことは正当であると判断したのに対し、これを数罪として処断すべきであると主張するものであつて、それが被告人に不利益な主張であることは明かであるから、上告理由としてこれを主張することは許されない。
一罪と認定処断したものを数罪として処断すべきであると主張して上告することができるか
刑訴法351条
判旨
被告人側からなされる上訴において、一罪と判断された原判決に対し数罪として処断すべきであると主張することは、被告人に不利益な主張であるため、適法な上告理由にはならない。
問題の所在(論点)
被告人の利益のために認められている上訴制度において、被告人側が「一罪ではなく数罪(より重い罪)として処断すべき」という自己に不利益な主張をすることが、適法な上告理由として認められるか。あわせて、職権調査義務の存否が問題となった。
規範
被告人又は弁護人が行う上訴において、被告人にとって不利益となる主張は、適法な上告理由として主張することは許されない。また、刑事訴訟法392条2項は、高等裁判所に対し職権調査の義務を課したものではなく、控訴趣意に含まれない事項について調査しなかったとしても違法ではない。
重要事実
第一審判決は、被告人の判示行為を包括的に一罪として処断した。これに対し、被告人側の弁護人は、当該行為を数罪として処断すべきであると主張して上告を申し立てた。原審(控訴審)は、第一審の判断を正当としていたが、上告人はこれが法令違反や憲法違反にあたると主張したものである。
事件番号: 昭和23(れ)2067 / 裁判年月日: 昭和24年8月9日 / 結論: 棄却
原審が被告人の數回に亘る行爲に對し刑法第五五條を適用處斷したのは違法であると主張する論旨は、たといその數回に亘る行爲が昭和二二年一一月一五日以後のものであるため刑法第五五條を適用したことが眞實違法である場合でも、被告人に不利益な主張であるから、上告の理由として採用することができない。
あてはめ
本件において、上告人の主張は第一審が認めた一罪を数罪として処断すべきとするものである。一罪を数罪として扱うことは、刑罰の加重につながる可能性があり、客観的に見て被告人に不利益な主張であることは明らかである。したがって、被告人の救済を目的とする上訴の趣旨に反し、適法な理由とはいえない。また、原判決が控訴趣意にない事項を職権で調査しなかった点についても、法規上義務付けられたものではないため、違法性は認められない。
結論
被告人に不利益な主張は適法な上告理由にならないため、本件上告は棄却される。
実務上の射程
上訴の利益に関する基本原則を示す。被告人側から「罪数が少なすぎる」といった不利益な主張をすることは、不利益変更禁止の原則(刑訴法402条等)の趣旨にも照らし、上告理由として排斥される。答案上は、上告理由の適格性や上訴の利益が問題となる場面で活用できる。
事件番号: 昭和27(あ)2967 / 裁判年月日: 昭和28年10月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の不利益になるような主張を上告理由とすることは、上告制度の趣旨に反し不適法である。 第1 事案の概要:被告人両名について、原判決が包括一罪として認定した事実に対し、弁護人が上告理由において「これらは併合罪である」として判例違反を主張した事案である。 第2 問題の所在(論点):被告人の弁護人が…
事件番号: 昭和26(あ)3454 / 裁判年月日: 昭和28年6月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自白の補強証拠については、実質的に自白の真実性を保障するに足りる証拠があれば足り、必ずしも犯罪事実の全部を直接証明するものである必要はない。 第1 事案の概要:被告人は複数の罪に問われ、検察官に対する供述調書において自白を行っていた。弁護人は、当該自白の任意性を争うとともに、第一審判決が挙げた証拠…