原判決は、被告人が小麦又は小麦粉を統制額を超過する代金をもつて売買した判示数個の事実を認定する証拠として被告人の第一審公判廷における供述、各売渡始末書記載、陳述書(写)、各買受始末書記載を挙げているが、右認定事実中主文第五項掲記の部分については、被告人の第一審公判廷における自白以外にこれを補強するに足る証拠は示されていないことが認められる(所論の陳述書写は補強証拠となし得るものと認められ従つて、右以外の判示事実は自白と補強証拠と相俟つてその認定を肯認することができる)。されば原判決は右の部分につき被告人の原審公判廷外における自白のみによつて有罪を認定したものであつて、当裁判所大法廷判例(判例集四巻七号一二九八頁以下及び同三巻四号四四五頁以下)に違反し原判決は刑訴施行法第三条の二、刑訴四〇五条二号、四一〇条により破棄を免れない。
第一審公判廷外における被告人の自白だけで有罪とした原審判決の違法 ―判例違反―
憲法38条3項,刑訴応急措置法10条3項,刑訴法405条2号,刑訴法410条
判旨
被告人の公判廷における自白のみによって犯罪事実を認定することは、補強証拠を必要とする憲法および刑事訴訟法の趣旨に反し、認められない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法上、被告人が公判廷において自白している場合に、補強証拠なしに犯罪事実を認定して有罪とすることができるか。
規範
公判廷における被告人の自白であっても、それのみで犯罪事実を認定することはできず、有罪とするためには自白を補強するに足りる証拠(補強証拠)を必要とする。
重要事実
被告人が小麦または小麦粉を統制額超過の代金で売買したとして物価統制令違反等で起訴された。原判決は、複数の取引事実のうち、被告人が氏名不詳者から3回にわたり小麦を買い受けた事実(第5項から第7項)について、被告人の第一審公判廷における自白以外に証拠がないまま有罪を認定した。
あてはめ
本件のうち特定の買受事実については、被告人の公判廷での自白以外に、それを裏付ける売渡始末書や陳述書等の証拠が存在しない。この場合、当該事実は自白のみに基づく認定となり、憲法38条3項および刑事訴訟法(旧刑訴法を含む)の定める補強法則の適用を免れない。したがって、他の証拠が示されていない部分については犯罪の証明がないものといえる。
結論
被告人の公判廷における自白のみで有罪を認定した原判決は判例に違反する。自白以外の証拠がない部分については無罪とし、他の証拠が存在する事実のみをもって刑を再構成すべきである。
実務上の射程
憲法38条3項にいう「本人の自白」には公判廷での自白も含まれることを明示した重要判例。司法試験では補強法則の適用範囲(公判廷自白の要否)が問われた際、本判例を根拠に「公判廷の自白であっても補強証拠が必要である」と論じるために用いる。
事件番号: 昭和26(れ)411 / 裁判年月日: 昭和26年6月5日 / 結論: 破棄差戻
第一審公判廷における被告人の自白が憲法第三八条第三項、刑訴応急措置法第一〇条第三項にいわゆる「本人の自白」にあたることは当裁判所の判例とするところである(昭和二三年(れ)第四五四号、同二四年四月六日大法廷判決参照)されば第一審における被告人の自白のみを採つて断罪の証拠にした原判決は正に所論の如く違憲違法の判決であつて、…
事件番号: 昭和24(れ)1285 / 裁判年月日: 昭和25年10月25日 / 結論: 棄却
一 旧刑訴法第二九一条第一項に公訴提起の方法として犯罪事実の表示を必要としたのは、訴訟物体の範囲を明確にするために外ならないのであるから、公訴状に犯罪事実の表示として、記録編綴の司法警察官意見書記載の犯罪事実を引用することはもとより何等妨げないところである。 二 旧刑訴第二九一条において公判請求書に犯罪事実を表示するた…