判旨
殺人罪の成否における殺意の有無は、使用された凶器の形状・性質や、攻撃を加えた身体部位、攻撃の態様等の客観的事実から推断することができる。
問題の所在(論点)
刑法199条の殺人罪の主観的構成要件要素である「殺意」を、凶器の性状や攻撃部位といった客観的事実から認定できるか。
規範
殺意の有無という主観的要素は、犯行時の客観的な状況、特に、凶器の種類・形状・性質、攻撃部位、攻撃の強さや回数といった犯行態様等の外形的客観的事実を総合的に考慮し、経験則に照らして推断されるべきである。
重要事実
被告人は、殺傷能力の高い「人命を奪うに足る」形状の包丁(証第一号)を凶器として使用した。被告人は、当該包丁を用いて、被害者の身体の中でも生命維持に直結する枢要部である「腹部等」を突き刺した。
あてはめ
本件において、被告人が使用した凶器は人命を奪うに足りる鋭利な包丁であり、攻撃対象は身体の枢要部である腹部であった。このような危険な凶器を用いて致命傷となり得る部位を突き刺す行為は、死の結果を招く危険性が極めて高い。したがって、かかる客観的な犯行状況に照らせば、被告人に死の結果を容認する殺意があったと推断することが経験則上、相当である。
結論
被告人が、人命を奪うに足る包丁をもって被害者の身体の枢要部である腹部等を突き刺した事実に基づき、被告人には殺意があったと認められる。
実務上の射程
実務上、殺意の立証において「凶器の危険性」「攻撃部位の枢要性」「攻撃の態様(強さ・回数)」という三本柱を重視する判断枠組みの先駆けである。答案上も、故意を認定する際の「客観的事実からの推認」の論理構成として、これらの要素を具体的事実から拾い上げて評価する際に用いる。
事件番号: 昭和26(あ)226 / 裁判年月日: 昭和26年9月6日 / 結論: 棄却
判示第一の事実によれば被告人は逃走の目的を以て着衣下に忍ばせていた刃渡り二二糎の肉切庖丁で被害者である看守Aの心喬部を一気に突き刺し同部に肝臓及び横隔膜を貫き左肺下葉に達する刺創を負わせたというのであるから、この行為自体だけでも被告人に殺意のあつたことを窺うに十分である。
事件番号: 昭和46(あ)1036 / 裁判年月日: 昭和46年10月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】殺人の実行行為において、凶器の形状や攻撃部位等の客観的状況から死の結果発生の可能性を認識・認容していたといえる場合には、未必の殺意が認められる。 第1 事案の概要:被告人は、出刃包丁を所携した状態で被害者であるA巡査と対峙した。その際、被告人は当該出刃包丁を用い、人体における枢要部であるA巡査の胸…
事件番号: 平成28(あ)307 / 裁判年月日: 平成29年4月26日 / 結論: 棄却
行為者が侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合,侵害の急迫性の要件については,対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況に照らして検討すべきであり,事案に応じ,行為者と相手方との従前の関係,予期された侵害の内容,侵害の予期の程度,侵害回避の容易性,侵害場所に出向く必要性,侵害場所にとどまる相当性,対抗行為の準備の状況…