判旨
凶器を用いた攻撃態様や犯行時の状況等の客観的事実から、犯人の内面にある傷害の故意を推認することは適法である。
問題の所在(論点)
殺意や傷害の故意という主観的構成要件要素について、被告人の直接的な供述以外の客観的事実から推認することが許されるか。
規範
犯罪の故意は、被告人の自白のみならず、犯行時の客観的な状況、攻撃の態様、使用された凶器の性質等の諸事実を総合し、経験則に照らして推認することができる。
重要事実
被告人は、被害者の隙を窺い、勢い込んでその背後から出刃包丁を振るって被害者の背部を突き刺した。原審は、被告人の供述に加えて、公判調書における証人の供述等を総合してこれらの事実を認定した。
あてはめ
本件では、被告人が隙を窺い「勢い込んで」攻撃に及んでいること、および「出刃包丁」という殺傷能力の高い凶器を用いて「背後から突き刺す」という危険な態様で行為に及んでいる。このような客観的態様からすれば、身体を傷つけることについての認識・認容があったと認めるのが経験則上相当であり、傷害の故意があったと推断できる。
結論
被告人に傷害の故意があったと認めた原判決に違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
主観的態様の立証において、客観的な犯行態様(凶器の性質、部位、攻撃の強さ)が極めて重要な推認資料となることを示した裁判例である。司法試験の答案作成においては、故意を論じる際に「行為の客観的危険性」を摘示し、そこから主観を導く論理構成の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和25(れ)1196 / 裁判年月日: 昭和25年11月9日 / 結論: 棄却
一 被告人が被害者に対して大声で「何をボヤボヤしているのだ」等と悪口を浴せ、矢庭に拳大の瓦の破片を投げつけ、なおも「殺すぞ」等と怒鳴りながら側にあつた鍬を振りあげて追いかける気勢を示したので被害者がこれに驚いて難を避けようとして夢中で逃げ出し、約二十間走り続けるうち過つて鉄棒に躓いて顛倒し、打撲傷を負うた場合には、右傷…