判旨
傷害致死罪における傷害行為の認定において、打撃が頭部に命中したという客観的事実の証拠があれば足り、必ずしも頭部を標的として狙ったことまでの立証は要しない。
問題の所在(論点)
傷害致死罪の認定において、特定の部位(頭部)を「目がけて」殴打したという主観的態様の立証が必要か。また、打撃回数の認定における「二、三回」と「数回」の表現の許容範囲が問題となった。
規範
傷害罪(刑法204条)及び傷害致死罪(同205条)の実行行為の認定においては、身体を傷害するに足りる暴行の事実、およびその結果としての傷害の発生が客観的に認められれば足りる。特定の部位を狙って攻撃したという加害者の主観的意図(目的)は、故意の範囲に含まれる攻撃の認識があれば足り、個別の命中部位を正確に標榜した殺意のような特段の意図までは必要とされない。
重要事実
被告人が被害者に対し、その身体を傷害して死に至らしめたとして傷害致死罪で起訴された事件。原審は被告人が被害者の「頭部を数回殴打」した事実を認定したが、弁護人は、頭部を目がけて殴打した証拠がないこと、および「数回」の認定が「二、三回」の証拠と矛盾し、正当防衛や誤想防衛の成立を妨げる違法があると主張して上告した。
あてはめ
最高裁は、原判決が認定した「頭部を数回殴打し」という事実について、頭部を殴打したという客観的な事実を裏付ける証拠があれば足りると判示した。すなわち、頭部を狙ったという主観的意図の立証は不要である。また、回数についても、二、三回殴打した証拠がある場合に、これを「数回」と判示することは許容範囲内であり、証拠法則上の違法はないと解される。さらに、正当防衛等の違法性阻却事由については、原審が認定した事実はそれらの要件を欠くものであり、法の適用に誤りはないとした。
結論
傷害致死罪の成立には、客観的な傷害行為と死亡結果の因果関係が認められれば足り、攻撃部位の選別に関する具体的な狙いの立証は不要である。上告棄却。
実務上の射程
暴行・傷害事件において「狙ったわけではない」「当たってしまっただけだ」という弁解が、実行行為性の否定や過失への減縮には繋がらないことを示す。実務上、傷害の故意(暴行の認識)があれば、客観的に生じた傷害部位に基づき事実認定が可能であることを裏付ける。
事件番号: 昭和25(れ)369 / 裁判年月日: 昭和25年6月27日 / 結論: 棄却
傷害罪又は傷害致死罪の成立に必要な主観的要件としては、暴行の意思を必要とし、且つ之を以つて充分である。暴行の意思以外に、さらに傷害の意思を要するものではない。