判旨
行政上の経済施策の変更に伴い、特定の物資に対する統制額の指定が廃止されたとしても、それは刑法6条にいう刑の廃止(刑訴法337条2号)には当たらず、行為当時の違法性を否定するものではない。
問題の所在(論点)
特定の物資に関する統制価格の廃止が、刑訴法337条2号の「刑の廃止」または刑法6条の「法律の変更」に該当し、免訴事由となるか。
規範
物価統制令のような経済統制法規において、特定の物資の統制額指定が解除されたとしても、それは事実上の変更(政策的変更)にすぎない。かかる変更は、刑法6条が想定する「犯罪後の法律により刑が変更されたとき」や、刑訴法337条2号の「刑の廃止」には当たらない。したがって、行為時の法令に従い処罰されるべきである。
重要事実
被告人等は、物価統制令に基づき重油の販売価格が制限されていた時期に、統制額を超える価格で重油を買い受けた。しかし、原判決の言渡し後に、重油の販売価格の統制額指定が廃止(経済安定本部告示による解除)された。被告人側は、これが「刑の廃止」に当たるとして免訴を求めた。
あてはめ
本件における重油の統制額指定の廃止は、経済情勢の推移に伴う経済施策上の変更にすぎない。これは、法令そのものが改廃されて当該行為の可罰性が否定される「法律の変更」ではなく、各物資に対する個別具体的な価格指定の変更という事実上の事態の変更と解される。したがって、行為当時に行われた統制違反行為の違法性や可罰性に影響を及ぼすものではないため、刑の廃止があったとは認められない。
結論
重油の統制額指定の廃止は「刑の廃止」に当たらず、被告人等を免訴すべきではない。行為時の法令に基づき、被告人を有罪とした判断は正当である。
実務上の射程
事件番号: 昭和26(れ)717 / 裁判年月日: 昭和26年7月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】物価統制令違反の行為後に、同令に基づく価格統制額を指定した主務官庁の告示が廃止されたとしても、刑訴法337条2号(旧刑訴法363条2号)にいう「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき」には当たらない。 第1 事案の概要:被告人は、物価統制令3条に違反して、告示により指定された統制価格を超える価格で衣…
司法試験等の答案上では、いわゆる「限時法」や「事実上の変更」の論点として重要である。法令の改廃が「反省的考慮」に基づくものか「事実上の変更」にすぎないかを区別する際のリーディングケースであり、本件のように物価統制という政策的・技術的変更については後者として扱う構成をとる。
事件番号: 昭和24(れ)2240 / 裁判年月日: 昭和26年3月23日 / 結論: 棄却
被告人の所為に対し適用した衣料品配給規則第三条(昭和二二年商工省令第二五号)昭和二二年商工省告示第五八号は、臨時物資需給調整法に基いて制定せられたものであり、同法が所謂限時法の性格を有することは、同法第一条及び同法附則三項の規定によつて明確でわるから、右告示の廃止は旧刑訴第三六三条二号にいわゆる「犯罪後ノ法令ニ因リ刑ノ…
事件番号: 昭和26(れ)1233 / 裁判年月日: 昭和27年2月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】犯罪後の法令により刑が廃止されたときに当たるとされる場合でも、特定の告示の廃止が事実上の変更にとどまる場合には、刑訴法337条2号の免訴事由には該当しない。 第1 事案の概要:被告人が、当時の法令および告示に基づき禁止されていた行為(詳細は判決文からは不明だが、先行判例の引用から物価統制令等に関連…
事件番号: 昭和26(れ)677 / 裁判年月日: 昭和26年11月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】物価統制令違反の行為後、統制価格に関する告示が廃止されたとしても、それは単なる事実の変化にすぎず、刑法6条及び刑事訴訟法402条(旧刑訴法363条)にいう「刑の廃止」には該当しない。 第1 事案の概要:被告人は、物価統制令3条に違反する行為(超過価格による取引等)を行った。しかし、当該行為の後に、…
事件番号: 昭和26(れ)1181 / 裁判年月日: 昭和26年10月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】犯罪成立後に当該行為を規制していた価格指定の告示が廃止された場合であっても、既に成立した犯罪の刑罰を廃止するものではなく、刑法6条や刑訴法337条2号による免訴等の対象にはならない。 第1 事案の概要:被告人が、物価統制令に違反する行為を行ったとして起訴された。しかし、当該犯罪の成立後かつ裁判の確…