判旨
労働組合法1条2項による刑罰不適用は、同条1項の目的を達成するための正当な行為にのみ認められる。団体交渉において脅迫罪に該当するような正当な範囲を逸脱した行為については、同項の適用はない。
問題の所在(論点)
労働組合法1条2項が規定する刑事免責の範囲。団体交渉において行われた脅迫行為について、同条2項による違法性阻却が認められるか。
規範
労働組合法1条2項が刑法35条(旧刑法25条)の適用を認めるのは、労働組合法1条1項の目的を達成するために行われた正当な行為に限られる。したがって、団体交渉の名を借りたものであっても、社会通念上許容される正当な範囲を逸脱し、刑法上の脅迫罪の構成要件に該当する暴力的・威圧的行為については、刑法上の違法性が阻却されることはない。
重要事実
被告人らは、労働組合の団体交渉の場において、交渉相手に対して脅迫罪に該当する行為を行った。原判決(二審)は、これらの行為が労働組合法上の正当な行為の範囲を逸脱していると判断し、脅迫罪の成立を認めていた。これに対し、被告人側は労働組合法1条2項による免責を主張して上告した。
あてはめ
本件における行為は、刑法所定の脅迫罪にあたるものである。労働組合法1条2項の趣旨は、あくまで同条1項の目的達成に資する「正当な行為」を保護する点にある。脅迫罪に該当するような暴力的な態様の行為は、労働組合の正当な活動としての範疇を逸脱しており、刑罰の不適用を認めるべき「正当な行為」には当たらない。したがって、被告人らの行為について刑法を適用し、処罰することは正当である。
結論
団体交渉における脅迫行為には労働組合法1条2項の適用はなく、脅迫罪が成立する。
実務上の射程
事件番号: 昭和25(れ)623 / 裁判年月日: 昭和25年7月6日 / 結論: 棄却
舊勞働組合法第一條第二項の規定は勤勞者の團体交渉においても刑法所定の暴行罪又は脅迫罪にあたる行爲が行われた場合にまでその適用があることを定めたものでないことは既に當裁判所大法廷の判例とするところである。(昭和二二年(れ)第三一九號同二四年五月一八日大法廷判決判例集第三卷第七七二頁以下參照)
労働基本権に基づく行為であっても、手段・態様の相当性が欠ける場合には刑事免責(労組法1条2項)が認められないことを示す。答案では、争議行為や団体交渉が刑事罰の対象となった際、違法性阻却の要件として「目的」のみならず「態様の正当性」を論じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和25(れ)1505 / 裁判年月日: 昭和26年2月2日 / 結論: 棄却
しかし旧労働組合法第一条第二項の規定は同条第一項の目的達成のためにした正当な行為についてのみ刑法第三五条の適用を認めたに過ぎず勤労者の団体交渉においても刑法所定の暴行罪又は脅迫罪にあたる行為が行われた場合にまでその適用があることを定めたものでないことは当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第三一九号、同二四年五月一八日大法廷…
事件番号: 昭和24(れ)3057 / 裁判年月日: 昭和27年12月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合法1条2項の刑事免責は、同条1項の目的達成のためにされた正当な行為にのみ認められるものであり、団体交渉等の際に行われた刑法上の暴行罪や脅迫罪に該当する行為には適用されない。 第1 事案の概要:被告人らは、労働争議における要求貫徹のための団体交渉の場において、多衆の威力を示し、住居侵入、暴行…
事件番号: 昭和26(れ)1209 / 裁判年月日: 昭和27年10月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】争議行為に伴う暴行・脅迫や不法監禁等の行為は、正当な争議行為の範域を逸脱するものであり、刑法35条及び旧労働組合法1条2項(現1条2項)による正当行為として免責されない。 第1 事案の概要:労働組合関係者らによる争議行為に際し、他者に対して暴行・脅迫(判示第一)及び不法監禁(判示第二)が行われた。…