判旨
刑の執行猶予の取消決定が迅速を欠いたとしても、そのこと自体は決定の効力に影響を及ぼさず、憲法37条1項の「公平な裁判所の裁判」は裁判所の組織構成に関するものであって個別の事件処理の当否を指すものではない。
問題の所在(論点)
刑の執行猶予の取消手続における遅滞が、当該決定の効力を左右する違法事由となるか。また、かかる遅滞が憲法37条1項にいう「公平な裁判所の裁判」を受ける権利を侵害するか。
規範
1. 刑の執行猶予の取消決定の手続において、仮にその決定が迅速を欠いたとしても、そのこと自体は当該決定を不当として取り消すべき事由にはならない。2. 憲法37条1項にいう「公平な裁判所の裁判」とは、偏頗や不公平のおそれのない組織構成をもった裁判所による裁判を意味し、個々の事件処理の当不当をいうものではない。
重要事実
抗告人は、昭和23年に窃盗罪により懲役1年・執行猶予3年の判決を受けたが、猶予期間中に再度窃盗罪を犯し、昭和24年4月に懲役1年6月の実刑判決が確定した。これを受け、検察官は昭和25年12月に執行猶予の取消しを請求し、簡易裁判所は昭和26年1月に取消決定を行った。抗告人は、この取消決定が迅速を欠き憲法に違反するなどとして特別抗告を申し立てた。
あてはめ
本件では、昭和25年12月の検察官による取消請求に対し、裁判所は翌年1月に決定を下しており、客観的にみて迅速を欠いたという非難は当たらない。また、仮に決定が迅速を欠いたとしても、手続の遅滞自体が直ちに決定の効力に影響を及ぼすものではない。さらに、憲法37条1項は裁判所の組織的公正を担保する規定であり、本件のような具体的な手続処理の遅速や当否を争う根拠とはなり得ない。
結論
本件の執行猶予取消決定に憲法違反の事由は認められず、特別抗告を棄却する。
事件番号: 昭和25(し)55 / 裁判年月日: 昭和26年10月6日 / 結論: 棄却
前犯に対する確定判決を動かしたり或は前犯に対し、重ねて刑罰を科する趣旨のものでもない刑法第二六条第一項第一号の規定が憲法第三九条その他の規定に違反しないことは、当裁判所昭和二四年(れ)第一二六〇号同年一二月二一日大法廷判決、昭和二四年(れ)第一四〇四号、同二五年三月一五日大法廷判決の趣旨に徴し疑をいれないところである。…
実務上の射程
執行猶予取消という刑事手続の付随的局面においても、迅速な裁判の要請や公平な裁判所の意義が争点となった際の解釈指針となる。憲法37条1項の「公平な裁判所」の定義を組織的構成に限定する判例法理を再確認する素材として重要である。
事件番号: 昭和56(し)44 / 裁判年月日: 昭和56年4月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】執行猶予の言渡しを取り消す旨の決定が告知された時点で猶予期間が満了していなければ、その後の特別抗告の係属中に猶予期間が経過したとしても、刑法27条による刑の言渡しの失効は生じない。 第1 事案の概要:被告人に対し執行猶予が付された刑の言渡しがあった。その後、執行猶予の取消事由が生じたため、裁判所は…
事件番号: 昭和46(し)25 / 裁判年月日: 昭和46年4月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】執行猶予者保護観察法5条1号にいう「善行」という文言は、刑法26条の2第2号の規定と相まって、その意義範囲が明確であるため、憲法31条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は執行猶予の言渡しを受け、その期間中、保護観察に付されていた。しかし、執行猶予者保護観察法5条1号に規定される「善行」を保持…
事件番号: 昭和26(し)47 / 裁判年月日: 昭和28年6月10日 / 結論: 棄却
一 刑訴応急措置法第一八条による特別抗告には、刑訴第四〇五条第二号第三号および第四一一条第一号は準用されない。 二 本件に適用される旧刑訴三七四条二項の規定によれば、検察官から執行猶予の言渡の取消請求があつた場合には、裁判所は、被告人又はその代理人の意見を聴き決定を為すべきものであつて、決定を為すには国選弁護人を選任し…
事件番号: 昭和56(し)76 / 裁判年月日: 昭和56年6月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑の執行猶予の言渡しを取り消す決定の効力は、抗告提起期間の経過または抗告棄却決定の確定によって生じるため、特別抗告の係属中に猶予期間が満了したとしても、原決定に誤りがない限り、期間満了による刑の言渡しの失効(刑法27条)は妨げられない。 第1 事案の概要:執行猶予の言渡しを取り消す旨の原決定の告知…