前犯に対する確定判決を動かしたり或は前犯に対し、重ねて刑罰を科する趣旨のものでもない刑法第二六条第一項第一号の規定が憲法第三九条その他の規定に違反しないことは、当裁判所昭和二四年(れ)第一二六〇号同年一二月二一日大法廷判決、昭和二四年(れ)第一四〇四号、同二五年三月一五日大法廷判決の趣旨に徴し疑をいれないところである。従つてこの点に関する論旨は理由がない。
刑法第二六条第一項第一号の合憲性
刑法26条1項1号,憲法39条
判旨
刑の執行猶予の取消しは、前科の確定判決による審理や刑罰を重ねるものではなく、憲法39条の一事不再理の原則に違反しない。
問題の所在(論点)
刑法26条1項1号に基づく執行猶予の取消しが、同一の犯罪について重ねて刑事上の責任を問うものとして、憲法39条(一事不再理・二重処罰の禁止)に抵触するか。
規範
刑の執行猶予制度は、猶予期間中の改過遷善を助長する一方、期間内に罪を犯した場合には警告に従い実刑を執行するものである。執行猶予の取消しは、前罪の確定判決に係る犯行を再び審理裁判したり、その判決の効力を変更したりするものではなく、同一の犯罪について重ねて刑罰を科すものでもないため、憲法39条に違反しない。
重要事実
抗告人は、詐欺罪により懲役1年、執行猶予3年の判決を受け、その確定後の猶予期間内にさらに横領罪を犯した。この後罪により懲役4年の実刑判決が確定したため、刑法26条1項1号に基づき、前罪(詐欺罪)の執行猶予が取り消された。これに対し、抗告人は当該取消しが二重処罰の禁止等を定めた憲法39条に違反すると主張して争った。
事件番号: 昭和28(し)97 / 裁判年月日: 昭和29年1月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法26条1号による執行猶予の必要的取消しは、一事不再理を定めた憲法39条等の規定に違反せず、合憲である。 第1 事案の概要:被告人は刑の執行猶予期間中にさらに罪を犯し、禁錮以上の刑に処せられた。これに基づき、刑法26条1号を適用して従前の執行猶予が取り消されたが、被告人は当該取消しが憲法39条に…
あてはめ
執行猶予の取消しは、被告人が「猶予期間内に罪を犯さない」という条件に反した結果、判決本来の効力として生じるものである。本件において抗告人は、詐欺罪の猶予期間内に横領罪を犯しており、これは自ら条件に違反した結果として取消しを招いたにすぎない。この取消しによって、前罪である詐欺罪の事実について再度審理したり、既に確定した詐欺罪の刑に加えて新たな刑を科したりするわけではない。したがって、一事不再理の原則に抵触する余地はない。
結論
刑法26条1項1号の規定は憲法39条に違反しない。よって、本件執行猶予の取消しは正当である。
実務上の射程
執行猶予制度の憲法適合性を裏付ける重要判例である。答案上は、憲法39条の「二重の危険」の意義を論じる際や、執行猶予の法的性質(一種の条件付裁判としての側面)を説明する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和35(し)34 / 裁判年月日: 昭和35年10月4日 / 結論: 棄却
刑法第二六条第三号は憲法第一一条、第一三条、第三八条、第三九条に違反しない。
事件番号: 昭和51(し)127 / 裁判年月日: 昭和51年12月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法26条3号による執行猶予の取消しは、憲法39条の「二重の処罰(二重処罰の禁止)」に違反しない。 第1 事案の概要:抗告人は、執行猶予の言渡しを受けた後、その猶予期間中にさらに罪を犯し、罰金に処せられた。これに基づき、刑法26条3号を適用して執行猶予の取消しがなされた。抗告人は、この取消しが憲法…
事件番号: 昭和49(し)55 / 裁判年月日: 昭和49年6月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法26条の2第2号に基づく執行猶予の取消しは、憲法31条の罪刑法定主義や憲法39条後段の二重処罰の禁止には違反しない。 第1 事案の概要:被告人に対し、刑法26条の2第2号(猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その執行を猶予されたことが発覚したとき)に基づき、執行猶予の言…
事件番号: 昭和26(し)76 / 裁判年月日: 昭和26年11月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑の執行猶予の取消決定が迅速を欠いたとしても、そのこと自体は決定の効力に影響を及ぼさず、憲法37条1項の「公平な裁判所の裁判」は裁判所の組織構成に関するものであって個別の事件処理の当否を指すものではない。 第1 事案の概要:抗告人は、昭和23年に窃盗罪により懲役1年・執行猶予3年の判決を受けたが、…