一 刑訴応急措置法第一八条による特別抗告には、刑訴第四〇五条第二号第三号および第四一一条第一号は準用されない。 二 本件に適用される旧刑訴三七四条二項の規定によれば、検察官から執行猶予の言渡の取消請求があつた場合には、裁判所は、被告人又はその代理人の意見を聴き決定を為すべきものであつて、決定を為すには国選弁護人を選任したり、口頭弁論に基いたりする必要のないものであることは論を俟たない。
一 刑訴応急措置法第一八条による特別抗告にも刑訴第四〇五条第二号、第三号、第四一一条第一号の準用があるか 二 検察官から刑の執行猶予言渡の取消請求があつた場合の決定手続の方式
刑訴応急措置法18条,刑訴法405条,刑訴法411条1号,刑法26条,旧刑訴法374条2項
判旨
執行猶予の取消請求手続において、裁判所は被告人等の意見を聴けば足り、国選弁護人の選任や口頭弁論を経る必要はない。また、刑法26条1項1号による執行猶予の取消しは、当初の判決に包含された法的効力の実現であり、憲法39条の一事不再理の原則に違反しない。
問題の所在(論点)
執行猶予の取消手続において国選弁護人の選任や口頭弁論が必要か。また、確定判決後に執行猶予を取り消すことは、憲法39条が禁止する「同一の犯罪について重ねて刑事上の責任を問うこと」に該当し違憲とならないか。
規範
検察官による刑の執行猶予取消請求があった場合、裁判所は被告人又は代理人の意見を聴いて決定を下すべきであり、国選弁護人の選任や口頭弁論に基づく審理を行う必要はない(旧刑訴法374条2項)。また、執行猶予の取消規定は、将来の善行を条件とする立法権の作用であり、取消事由の具備による効力発生は確定判決の内容を動かすものではないため、二重の危険の禁止(憲法39条)には抵触しない。
重要事実
被告人は窃盗罪により懲役1年・執行猶予4年の判決を受けた。その後、猶予期間前の別罪(傷害・傷害致死)による懲役2年6月・執行猶予5年の判決が確定したこと等を理由に、検察官が執行猶予の取消しを請求。裁判所は被告人の意見を聴取した上で取消決定を行ったが、弁護人は、国選弁護人の選任や公開の口頭弁論が行われなかった点、および執行猶予の取消し自体が憲法39条の一事不再理に反する点を理由に特別抗告を申し立てた。
事件番号: 昭和25(し)55 / 裁判年月日: 昭和26年10月6日 / 結論: 棄却
前犯に対する確定判決を動かしたり或は前犯に対し、重ねて刑罰を科する趣旨のものでもない刑法第二六条第一項第一号の規定が憲法第三九条その他の規定に違反しないことは、当裁判所昭和二四年(れ)第一二六〇号同年一二月二一日大法廷判決、昭和二四年(れ)第一四〇四号、同二五年三月一五日大法廷判決の趣旨に徴し疑をいれないところである。…
あてはめ
手続面については、当時の刑事訴訟法(旧374条2項)の規定上、意見聴取の手続を経ている以上は適法である。憲法上の実体面については、執行猶予の制度自体が「一定の条件が満たされない場合に刑を執行する」という法的効力を当初から判決内容として含んでいる。したがって、条件(取消事由)が成就した際に猶予を取り消すことは、新たな刑事責任を問うものではなく、既存の確定判決の効力を実現するものにすぎない。ゆえに二重危険の排除を定めた憲法39条には反しない。
結論
本件執行猶予取消決定の手続に違憲の過誤はなく、また刑法26条各号に基づく取消しは憲法39条に違反しないため、特別抗告を棄却する。
実務上の射程
執行猶予取消手続が簡略な決定手続で足りることを確認した判例である。答案上は、憲法39条の「刑事上の責任」の意義を論じる際、既判力や二重危険の射程が、判決時に付された条件的効力の発生(取消し)にまで及ぶものではないことを示す根拠として活用できる。
事件番号: 昭和28(し)97 / 裁判年月日: 昭和29年1月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法26条1号による執行猶予の必要的取消しは、一事不再理を定めた憲法39条等の規定に違反せず、合憲である。 第1 事案の概要:被告人は刑の執行猶予期間中にさらに罪を犯し、禁錮以上の刑に処せられた。これに基づき、刑法26条1号を適用して従前の執行猶予が取り消されたが、被告人は当該取消しが憲法39条に…
事件番号: 昭和26(し)76 / 裁判年月日: 昭和26年11月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑の執行猶予の取消決定が迅速を欠いたとしても、そのこと自体は決定の効力に影響を及ぼさず、憲法37条1項の「公平な裁判所の裁判」は裁判所の組織構成に関するものであって個別の事件処理の当否を指すものではない。 第1 事案の概要:抗告人は、昭和23年に窃盗罪により懲役1年・執行猶予3年の判決を受けたが、…
事件番号: 昭和27(し)26 / 裁判年月日: 昭和28年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法26条1項2号(現行26条1号)の「刑に処せられた」とは、執行猶予の言渡しがない場合を指す。したがって、併合罪の関係にある数罪が前後して起訴され、各判決で共に執行猶予が付された場合は、同号による取消事由には該当しない。 第1 事案の概要:被告人は、(1)昭和25年7月頃の窃盗罪により、同年9月…
事件番号: 昭和42(し)32 / 裁判年月日: 昭和42年6月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑の執行猶予の取消しは、執行猶予の判決に内在する予定された事態の実現にすぎず、憲法39条が禁じる二重処罰には当たらない。また、取消しの効果は取消決定の告知によって生じる。 第1 事案の概要:被請求人は刑の執行猶予の言渡しを受けたが、保護観察期間中に情状の重い遵守事項違反があった。これを受け、裁判所…