所論大審院判例(昭和一三年九月二八日民集一九二七頁)は、まだ刈り取らない立稲でも観念上地盤とは別箇の物として民事上の取引をすることができるというだけであつて、当事者間の或る契約が如何なる趣旨の契約であるかの裁判所の認定権を拘束するものでないことはいうを俟たない。されば、原判決が被告人Aと被告人Bとの間の本件契約を判示のごとく食糧管理法の禁止する主要食糧の不法譲渡をしたものと認定しても、所論判例に反する判断をしたものということはできない。
立稲売買を主要食糧の不法譲渡と認定した原審判決と判例違反の有無
食糧管理法9条,刑訴法405条3号
判旨
未刈取りの立稲であっても、観念上土地とは別個の独立した動産として取引の対象となり得るが、それが主要食糧の不法譲渡に該当するか否かは、個別の契約趣旨を合理的に解釈して判断すべきである。
問題の所在(論点)
未刈取りの立稲が土地から独立した取引の客体となり得るか、また、その譲渡が食糧管理法上の主要食糧の不法譲渡罪を構成するか。
規範
未刈取りの立稲は、観念上地盤(土地)とは別個の物として民事上の取引の対象となり得る。もっとも、当事者間の契約が如何なる性質・趣旨のものであるかは、裁判所の事実認定および契約解釈の権限に属し、形式的な物の独立性のみによって一律に判断されるものではない。
重要事実
被告人Aと被告人Bは、未だ刈り取られていない状態の立稲について売買契約を締結した。この行為が、当時の食糧管理法が禁止する主要食糧の不法譲渡に該当するかが争点となった。弁護人は、大審院判例を引用し、立稲は土地の一部であって独立した物ではないから不法譲渡には当たらない旨を主張して上告した。
あてはめ
判決文によれば、立稲が地盤と別個の物として取引可能であるという法理は認めつつも、本件契約の具体的態様を検討した原判決の認定を是認した。すなわち、立稲の状態であっても、実質的に主要食糧の譲渡を目的とする契約であれば、食糧管理法の禁止規定に抵触すると解される。本件では、被告人両名間の契約が同法に違反する「主要食糧の不法譲渡」に当たるとした原審の事実認定に合理性があるとした。
結論
立稲の譲渡であっても主要食糧の不法譲渡罪は成立し得る。本件上告を棄却し、有罪とした原判決を維持する。
実務上の射程
民法上の「従物」や「定着物」の概念にかかわらず、刑罰法規の目的(食糧管理の適正)に照らし、実質的な取引対象が何であるかによって罪の成否が決まることを示唆している。答案上は、物の独立性という形式論だけでなく、当該取締法規の趣旨に照らした実質的な契約解釈が必要であることを論じる際に参照すべきである。
事件番号: 昭和26(あ)3287 / 裁判年月日: 昭和28年2月24日 / 結論: 棄却
主要食糧を違法に買受けた者がこれを違法に輸送した場合といえども、その輸送の罪(食糧管理法九条、三一条、同法施行令一一条、同法施行規則二九条一項の罪)が成立することもちろんである。