第一審第三回公判調書の記載によれば、第一審判決の宣告期日は、昭和二四年八月三日と指定されており、同第四回公判調書によれば、右八月三日に同判決の宣告が為された旨記載されているが、三輪、豊田両弁護人の上告趣旨第一点、三、挙示の各書面中の年月日の記載によれば、右各公判調書の八月三日の記載は、九月五日の誤記であつて、本件第一審判決宣告の日は、昭和二四年九月五日であると認定するを相当とする。従つてこの点に関する原判決の判断は、失当たるを免れないものといわなければならない。尤も、右は、前記第一審公判調書の年月日の記載が誤記たるに止り(三輪弁護人等の上告趣意第一点、二、掲記の大正一三年二月九日の大審院判例参照)、有効な第一審判決の宣告があり、従つて、適法な控訴の申立があつたのであるから、その欠点は、結局において第一審判決及び原判決に影響を及ぼすものとは思われない。
公判調書における判決宣告期日の誤記と判決への影響の有無
憲法31条,刑訴法379条,刑訴法52条,刑訴法48条,刑訴法411条,刑訴規則44条2号,刑訴規則44条30号
判旨
憲法37条1項にいう「公平な裁判所」とは、裁判所の組織・構成において偏頗(へんぱ)の恐れがない裁判所を指し、裁判の内容や手続が当事者の主観として不公平に感じられるものを指すのではない。また、公判調書の判決宣告日の記載が誤記であったとしても、有効な判決宣告と適法な控訴申立が行われている限り、判決に影響を及ぼす違法とはならない。
問題の所在(論点)
1. 憲法37条1項にいう「公平な裁判所」の意義。裁判の内容や手続に対する当事者の主観的不満が、同条の「不公平」に該当するか。 2. 公判調書における判決宣告日の誤記が、判決を破棄すべき事由(判決に影響を及ぼす法例違反)に該当するか。
規範
1. 憲法37条1項の「公平な裁判所」とは、裁判所の組織および構成において偏頗(不公平)な疑いを生じさせる恐れがない裁判所を意味する。当事者から見て裁判の内容や手続が不公平であると感じられるかどうかという主観的事情は、これに含まれない。 2. 訴訟手続の形式的瑕疵(公判調書の記載ミス等)が判決に影響を及ぼすか否かは、有効な判決の宣告および適法な上訴権の行使が妨げられたかという実質的観点から判断する。
重要事実
第一審判決の宣告に関し、第一審の公判調書には昭和24年8月3日に判決を宣告した旨の記載があった。しかし、弁護人が提出した書面等の客観的事実によれば、実際の判決宣告日は同年9月5日であり、公判調書の記載は単なる誤記であった。被告人側は、このような手続上の不備や裁判の不公平さを理由に、憲法37条1項違反および訴訟法違反を主張して上告した。
あてはめ
1. 憲法37条1項の「公平な裁判所」は組織・構成の客観的な中立性を担保する規定であり、本件における手続上の不満はこれに当たらない。 2. 第一審公判調書の年月日の記載は誤記にすぎない。誤記はあるものの、実態としては有効な第一審判決の宣告がなされており、それに対して被告人側も適法に控訴の申し立てを行っている。したがって、調書の誤記という瑕疵は、判決の結論や上訴権の行使という訴訟の本質的部分に影響を及ぼすものではない。
結論
憲法37条1項違反の主張は採用できない。また、公判調書の記載に誤記はあるものの、判決に影響を及ぼすものとは認められないため、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとはいえず、上告を棄却する。
実務上の射程
「公平な裁判所」の定義を明示した重要判例である。司法試験においては、裁判官の除斥・忌避に関連する論点や、刑事訴訟手続の瑕疵の重要性を検討する際、単なる主観的不満や形式的誤記では憲法違反や判決取消事由にならないことを論証する根拠として活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)3426 / 裁判年月日: 昭和28年11月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項が保障する「公平な裁判所」とは、その組織および構成に偏頗の恐れがない裁判所を指し、当事者の主観的な不公平感により判断されるものではない。 第1 事案の概要:被告人が、下級審における裁判の内容や手続が当事者から見て不公平であると主張し、憲法37条1項の保障する「公平な裁判所」の裁判を受…