判旨
裁判官とは裁判の職務を行う官吏の総称であり、「判事」はすべて「裁判官」に含まれる。したがって、裁判書や公判調書において「判事」と表示することは、当該裁判官が適法に関与したことを示すものとして正当である。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法上の「裁判官」と裁判所法上の「判事」の関係性、および裁判書や公判調書において裁判官を「判事」と表示することの適法性が問題となる。
規範
裁判官とは、裁判の職務を行う官吏の総称を指す。したがって、判事はすべて裁判官としての性質を有しており、裁判書や公判調書における表示として「判事」という名称を用いることは、裁判の主導・関与主体が適格な裁判官であることを示す表記として適法である。
重要事実
被告人が提起した上告において、原審(控訴審)の第一回および第二回公判調書に「裁判長判事平井林、判事久利馨、同藤間忠顯」が列席した旨が記載され、原判決書にも同様の氏名の署名押印があった。弁護人は、これら「判事」と表記された者は「裁判官」ではないという前提に立ち、裁判官ではない者が公判に関与し判決を下したことは違憲であると主張して上告した。
あてはめ
裁判官という概念は、裁判職務を担う官吏の総称である。本件において、公判調書および判決書に記載された「判事」各名は、裁判の職務を行う裁判官にほかならない。実際に原判決には「裁判長裁判官」等の署名押印もなされており、公判に関与した裁判官がそのまま判決を下したことは明らかである。したがって、表記上「判事」とされたことが、直ちに裁判官以外の者による裁判を意味するものではないと評価される。
結論
「判事」という表示をもって裁判官が職務を行うことは正当であり、裁判官以外の者が裁判を行ったという違憲・違法の事由は認められない。上告棄却。
実務上の射程
裁判体(構成裁判官)の適格性や署名押印の有効性が争われる場面での基礎となる判例である。裁判所法上の官職名(判事)と憲法・刑訴法上の職責名(裁判官)が一致することを明示しており、形式的な表記の差異が直ちに裁判の無効事由(刑訴法377条1号等)にはならないことを示す。答案上は、裁判官の適格性に関する前提知識として短く触れる程度で足りる。
事件番号: 昭和25(あ)2358 / 裁判年月日: 昭和26年3月8日 / 結論: 棄却
所論は、原審公判調書並びに判決書に単に「判事何某」と記載してあるだけで「裁判官判事何某」と記載していないのは裁判所を適法に構成しない違法があると主張する。しかし、判事はすべて裁判官であり裁判官でない判事は存しないのであるから、「判事」の表示さえあれば何らの違法もないのである。論旨は、刑訴第四〇五条の上告理由に当らない。