判旨
刑事訴訟法335条2項にいう「法律上犯罪の成立を妨げる理由」等の主張とは、単なる情状の主張ではなく、具体的かつ明示的な法的権利の主張を指す。被告人の供述や弁護人の書面に飲酒や精神状態の異常に関する記載があっても、それが単に量刑の不当(情状)を訴える趣旨に留まる場合は、裁判所は同項の判断を示す必要はない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法335条2項の「法律上犯罪の成立を妨げる理由となる事実の主張」の意義。被告人が飲酒や精神状態を理由に無罪や減刑を示唆する供述をしていた場合、裁判所は同項に基づく判断を判決書に記載しなければならないか。
規範
刑事訴訟法335条2項が判決理由において判断を求めている「法律上犯罪の成立を妨げる理由となる事実」等の主張とは、単に事実関係や動機を弁解したり、量刑上の情状を訴えたりするものではなく、法律上の構成要件の欠如、違法性阻却事由、又は責任阻却事由(心神喪失、心神耗弱等)を具体的かつ法律的な根拠に基づき主張するものであることを要する。したがって、主張の形式および内容に照らし、単なる情状の主張と解される場合には、裁判所は格別の判断を示す義務を負わない。
重要事実
被告人Aは、犯行当時の飲酒による酩酊状態および以前からの精神状態の不調を主張し、これが刑事訴訟法335条2項の「法律上犯罪の成立を妨げる理由」に該当するにもかかわらず、第一審および原審がこれについて判断を示さなかったことは判例違反であるとして上告した。記録上、被告人の供述や弁護人の控訴趣意書には、飲酒や精神的不調に関する言及は認められたものの、被告人自身は後に控訴趣意書を撤回していた。
あてはめ
被告人らの供述および弁護人の趣旨書の記載を検討すると、犯行当時の飲酒や精神状態に関する言及は認められる。しかし、これらの主張はあくまで犯行の動機や経過、あるいは家庭状況等と併せて述べられたものであり、法律上の責任能力の欠如等を具体的に構成する主張とは認められない。すなわち、これらは単に「量刑の情状」として述べられているに過ぎない。また、被告人Aが自ら控訴趣意書を撤回しているという経緯も踏まえれば、法335条2項の対象となる適法な主張が維持されているとはいえない。
結論
被告人側の主張は単なる量刑不当の主張(情状の主張)に過ぎず、法335条2項所定の「法律上犯罪の成立を妨げる理由」等の主張には当たらない。したがって、原判決がこれに判断を与えなかったことに違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
刑事訴訟における「理由の食い違い」や「理由不備」を論じる際の基準となる。実務上、責任能力の抗弁(心神喪失・心神耗弱)を明示的に主張しない限り、証拠上その疑いがある程度では335条2項の判断義務は生じないという、裁判所の判断の対象範囲を画定する射程を持つ。
事件番号: 昭和25(あ)3391 / 裁判年月日: 昭和27年12月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】飲酒による精神障害が認められる場合であっても、直ちに心神喪失とされるわけではなく、諸証拠や鑑定結果に基づき心神耗弱にとどまると判断することは正当である。 第1 事案の概要:被告人は飲酒した状態で本件犯行に及んだ。被告人の弁護人は、当時の被告人が心神喪失の状態にあったと主張し、鑑定書や鑑定人の証言を…