一 心神耗弱の主張に対する判断の遺脱は、刑訴第三七八条第四号に該当せず、同第三七九条に該当する。 二 右判断遺脱があつても常に必ずしも判決に影響を及ぼす訴訟手続の法令違反ということはできない。
一 心神耗弱の主張に対する判断の遺脱は絶対控訴理由となるか 二 右判断遺脱は訴訟手続の法令違反として常に判決に影響するか
刑訴法335条2項,刑訴法378条4号,刑訴法379条,刑法39条2項
判旨
刑事訴訟法335条2項の判断遺脱は、378条4号にいう「判決に理由を附せず」には該当しない。したがって、同遺脱を理由に第一審判決を破棄するには、379条に基づき、その違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを要する。
問題の所在(論点)
刑訴法335条2項(法律上の主張に対する判断)の不示示・遺脱が、同法378条4号(理由不備・理由齟齬)の絶対的控訴理由に該当するか、あるいは379条の相対的控訴理由に留まるか。
規範
1. 刑訴法378条4号にいう「理由」とは、335条1項が要求する「罪となるべき事実、証拠の標目及び法令の適用」を指し、同条2項が要求する法律上の主張に対する判断は含まれない。 2. したがって、335条2項の判断遺脱は、絶対的控訴理由(378条各号)ではなく、相対的控訴理由(379条)に該当する。この場合、当該違反が「判決に影響を及ぼすことが明らかである」場合に限り、破棄事由となる。
重要事実
被告人の弁護人は、第一審において行為当時被告人が心神耗弱の状態にあった旨を主張したが、第一審判決はこの主張に対する判断を判決書に示さなかった。被告人側は、これが刑訴法335条2項違反であり、かつ378条4号の理由不備にあたると主張して控訴・上告した。原審は、心神耗弱の主張に理由がないため判決への影響はないとして控訴を棄却していた。
事件番号: 昭和29(あ)972 / 裁判年月日: 昭和29年7月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法335条2項にいう「法律上犯罪の成立を妨げる理由となる事実の主張」とは、刑罰法規が特定の事由がある場合に犯罪の成立を妨げ、または必ず刑の加重減免をすべきものと規定している場合の事実上の主張を指す。 第1 事案の概要:被告人および弁護人は、第一審判決に対し上告を提起した。弁護人は、第一審判…
あてはめ
1. 378条4号の「理由」の意義について、判例は有罪判決の核心的要素である335条1項の事項に限定解釈しており、本件のような335条2項違反を当然に378条4号に含めることはしない。 2. 本件では、第一審において心神耗弱の主張に対する判断を遺脱した違法はあるものの、記録上、被告人の精神状態は正常であったと認められ、心神耗弱を認めるに足りる証拠がない。したがって、主張に理由がない以上、判断を遺脱した違法が判決の結果に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。
結論
335条2項違反は379条の訴訟手続の法令違反であり、本件では判決に影響を及ぼすことが明らかではないため、第一審判決を破棄することはできない。上告棄却。
実務上の射程
訴訟手続の法令違反を理由とする控訴趣意を作成する際、335条2項違反は378条4号ではなく379条の問題として構成し、「判決への影響」まで論証する必要があることを示す。特に、主張自体に理由がない場合や証拠上認められない場合には破棄事由にならないという実務上の限界を画定している。
事件番号: 昭和27(あ)1264 / 裁判年月日: 昭和28年8月18日 / 結論: 棄却
自首があつたとの主張は、刑訴第三三五条第二項の主張にあたらない。