判旨
支払能力や意思がないにもかかわらず、通常の旅客を装って宿泊を申し込む行為は、作為による欺罔行為に当たり、詐欺罪(刑法246条2項)が成立する。
問題の所在(論点)
代金支払能力や意思がない者が、通常の客を装って宿泊を申し込む行為が、刑法246条の「欺」く行為(特に作為による欺罔)に該当するか。
規範
宿泊の申し込みにおいて、代金支払能力及び意思があることは、取引上の重要な事項である。したがって、これらがないのに通常の客を装って宿泊を申し込む行為は、挙動による積極的な欺罔行為(作為)に該当する。
重要事実
被告人は、所持金がなく、宿泊料金を支払う見込みが確実にはない状態であった。それにもかかわらず、通常の旅客のような外装・態度を装って、宿泊施設側に宿泊を申し込んだ。相手方は被告人に支払能力があるものと誤信し、宿泊等の便益を提供し、被告人は財産上不法の利益を得た。
あてはめ
被告人は所持金がなく支払能力を欠いていたが、これを秘して通常の旅客を装い宿泊を申し込んでいる。この「通常の旅客を装う」という挙動は、宿泊契約において前提とされる支払意思・能力があることを相手方に信じ込ませる積極的な表現行為といえる。したがって、単なる不作為の告知義務違反ではなく、作為による欺罔行為により相手方を誤信させ、宿泊という利益を得たものと評価される。
結論
被告人には、作為による欺罔行為を理由とする詐欺罪(刑法246条2項)が成立する。
実務上の射程
本判決は、無銭宿泊(いわゆる食い逃げ・乗り逃げの類型)において、どの時点のどのような行為が欺罔にあたるかを明確にしている。不作為の詐欺(告知義務の存否)を論じるまでもなく、挙動による作為の欺罔として処理できることを示した実務上重要な判断である。
事件番号: 昭和30(あ)478 / 裁判年月日: 昭和30年7月7日 / 結論: 棄却
刑法第二四六条第二項の詐欺罪において、財産上不法の利益が、債務の支払を免れたことであるとするには、相手方たる債権者を欺罔して債務免除の意思表示をさせることを要し、単に逃走して事実上支払をしなかつただけで足りるものではない。