刑法第二四六条第二項の詐欺罪において、財産上不法の利益が、債務の支払を免れたことであるとするには、相手方たる債権者を欺罔して債務免除の意思表示をさせることを要し、単に逃走して事実上支払をしなかつただけで足りるものではない。
刑法第二四六条第二項の詐欺罪において債務の支払を免れたとするための要件
刑法246条,刑訴法335条1項
判旨
2項詐欺罪の「財産上不法の利益」は、相手方の意思に基づき得られるものを指し、債務を免れる場合には欺罔により債務免除の意思表示をさせることを要する。ただし、無銭飲食等の場合は、飲食等の提供を受けた時点で1項詐欺罪が成立し、その後の逃走は犯罪の成立に影響しない。
問題の所在(論点)
当初から代金を支払う意思がないのに飲食・宿泊の提供を受けた後、隙を見て逃走した場合に、詐欺罪の既遂時期はいつか。また、債務の支払を事実上免れたことが2項詐欺罪にあたるか。
規範
刑法246条2項にいう「財産上不法の利益」を得る行為とは、相手方の意思によって利益を得る場合を指す。したがって、詐欺によって債務の支払を免れたというためには、相手方を欺罔して債務免除の意思表示をさせることが必要であり、単に逃走して事実上支払をしなかっただけでは同条2項の詐欺罪は成立しない。一方、当初から支払意思がないのにこれを装って供食を受ける行為は、財物ないしサービスを交付させた時点で1項詐欺罪(または1項に準じた既遂)が成立する。
重要事実
被告人は、所持金がなく代金を支払う意思もないのに、あるかのように装って料亭に宿泊し、飲食を行った。その後、知人を見送ると嘘を言って店先に出たまま逃走し、代金合計3万2290円の支払を事実上免れた。
あてはめ
被告人は当初から支払意思を秘して被害者を欺罔し、宿泊および飲食の提供を受けている。この時点で、被害者の交付意思に基づく財産的利益(または財物)の移転が認められ、詐欺罪は既遂に達している。その後の逃走行為は、債務免除という「相手方の意思による処分」を欠くため2項詐欺罪の「利益」を得たことにはならないが、既に成立した詐欺罪の成立を左右するものではない。
結論
無銭飲食等の場合、欺罔により飲食・宿泊の提供を受けた時点で詐欺罪が成立する。単なる逃走による支払免脱は2項詐欺罪を構成しないが、提供を受けた事実自体が詐欺罪を構成するため、結論として本件は詐欺罪の既遂となる。
実務上の射程
飲食や宿泊といったサービスの享受が先行する事案では、1項詐欺(または1項と同様の枠組み)として処理すべきであり、2項詐欺の成否を検討する際には「処分行為(債務免除の意思表示)」の有無が厳格に問われることを示した。利益窃盗を処罰しない原則との境界線を示す重要な判決である。
事件番号: 昭和27(あ)3806 / 裁判年月日: 昭和30年4月8日 / 結論: 破棄差戻
刑法第二四六条第二項の罪が成立するには、他人を欺罔して錯誤に陥れ、その結果被欺罔者をして何らの処分行為を為さしめ、それによつて自己または第三者が財産上利益を得なければならない。