裁判所が弁護人に対しては証人尋問に立会の機会を与え、被告人の審問権を実質的に害しない措置を講じたのに拘わらず、弁護人は、みずからその権利を抛棄し、被告人もその後何等の異議をさしはさまず同証人の公判廷喚問の申請もしなかつたときは、被告人が右証人尋問に立会せしめられなかつたことを以て憲法三七条二項に違反するということはできない。(昭和二四年(れ)第一八七三号同二五年三月一五日大法延判決参照)
証人尋問につき被告人の審問権を実質的に害しない措置が講ぜられた場合と憲法三七条二項
憲法37条2項,刑訴法157条,刑訴法158条,刑訴法159条
判旨
被告人に反対尋問の機会を付与しない証拠の使用は原則として憲法37条2項に反するが、被告人側が機会を与えられながら自らこれを放棄した場合には、同条に違反しない。
問題の所在(論点)
被告人が証人尋問に立ち会わず、反対尋問の機会が得られなかった証人尋問調書を証拠とすることが、憲法37条2項(証人審問権)に違反するか。
規範
憲法37条2項は、被告人に反対尋問の機会を与えないで作成された証拠書類を証拠とすることを絶対的に禁止するものではない。裁判所が被告人側に対して証人尋問に立ち会う機会を与え、被告人の審問権を実質的に害しない措置を講じたといえる場合には、被告人側が自らその権利を放棄し、その後の証拠調手続においても異議を申し立てなかったとしても、同条に違反するものではない。
重要事実
第一審における証人Aの尋問は、検察官および弁護人双方の申請によるものであった。裁判所は尋問期日を第一審公判で告知したが、弁護人は当該尋問に立ち会わない旨を陳述した。その後、公判廷で当該証人尋問調書の証拠調べが行われた際、被告人および弁護人は証人尋問の適否について異議を申し立てず、再度同証人を公判廷に召喚する申請も行わなかった。
あてはめ
本件では、裁判所は弁護人に対して証人尋問への立会いの機会を適法に提供しており、被告人の審問権を実質的に保護する措置を講じていたといえる。これに対し、弁護人は自らの意思で立会いを拒否しており、権利を自ら放棄したものと解される。また、被告人もその後の公判で異議を述べず、再度の喚問申請もしていないことから、手続保障は尽くされている。したがって、反対尋問を経ていない証言を証拠としたことは、被告人の審問権を不当に侵害するものではない。
結論
被告人が証人尋問に立ち会わなかったことをもって憲法37条2項に違反するということはできず、当該証拠の採用は適法である。
実務上の射程
憲法37条2項の証人審問権が「機会の付与」を保障するものであることを示しており、被告人側がその機会を自ら放棄したと評価される場合には、反対尋問を経ていない証拠の証拠能力が肯定され得る。実務上は、伝聞例外(刑訴法321条等)や証拠同意(326条)の背景にある憲法上の根拠を補強する際に活用できる。
事件番号: 昭和26(あ)23 / 裁判年月日: 昭和27年2月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が証人調べの請求を却下することは、直ちに憲法37条2項に定める証人喚問権の侵害には当たらず、訴訟指揮権の合理的な範囲内であれば合憲である。 第1 事案の概要:刑事被告人の弁護人が、原審において証人申請を行ったが、裁判所はこれを採用しなかった(却下した)。被告人側は、この証人申請の却下が憲法3…