被告人自身に黙祕権があるからといつて、他人に虚偽の陳述をするよう教唆したときは偽証教唆の責を免れない。
被告人の黙祕権と偽証教唆罪の成立
刑訴法311条,刑法169条,刑法61条
判旨
自己の刑事事件に関する証拠について、被告人自身に黙秘権があるとしても、他人に虚偽の陳述をするよう教唆したときは偽証教唆罪(刑法103条、61条1項)が成立する。
問題の所在(論点)
被告人が自己の刑事事件に関し、他人に虚偽の陳述をするよう教唆した場合に、自己の黙秘権の保障を理由として偽証教唆罪の成立が否定されるか。
規範
被告人自身には自己に不利益な供述を拒否する黙秘権(憲法38条1項)が保障されているが、そのことは他人の証言を汚染し、国家の司法作用を妨害することまでを許容するものではない。したがって、被告人が自己の刑事事件に関して他人に虚偽の陳述を行うよう働きかけた場合には、教唆の一般原則に従い偽証教唆罪が成立する。
重要事実
被告人が、自己の刑事事件において、証人となるべき他人に対して虚偽の陳述を行うよう教唆した。被告人は、自身に黙秘権があることを理由に、他人に虚偽の陳述をさせることも防御権の範囲内であるとして、偽証教唆罪の成立を争った。
あてはめ
被告人自身に黙秘権があるとしても、それは自ら供述を拒否する権利に留まる。他人に働きかけて虚偽の陳述をさせる行為は、もはや自己の供述拒否の範囲を超え、司法の適正な運用を能動的に侵害する行為といえる。したがって、他人に虚偽の陳述を教唆した事実は、正当な防御権の行使を逸脱するものであり、偽証教唆罪の構成要件に該当し、違法性も阻却されないと解される。
結論
被告人に黙秘権があるからといって、他人に虚偽の陳述をするよう教唆したときは、偽証教唆罪の責を免れない。
実務上の射程
本判決は、証拠隠滅罪(刑法104条)における「他人の刑事事件」という限定の有無とは異なり、偽証罪の教唆については自己の事件であっても成立することを明確にしている。答案上は、防御権の濫用(期待可能性の有無)という観点から論じる際の根拠となる。ただし、親族による教唆などの特殊事情がある場合には、期待可能性の欠如による責任阻却の余地を別途検討する必要がある。
事件番号: 昭和30(あ)2001 / 裁判年月日: 昭和32年11月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人に自己の刑事事件について黙秘権があるとしても、他人に虚偽の証言をすることを教唆した場合には、偽証教唆罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人が自己の刑事事件に関し、弁護人の申請に基づき証人として出廷した者(A)に対し、虚偽の証言をするよう働きかけた。Aは、午前の公判で尋問を終了し、午後の公判…
事件番号: 昭和29(あ)3965 / 裁判年月日: 昭和32年4月30日 / 結論: 棄却
一 刑訴第二条第一項にいわゆる「現在地」とは、公訴提起の当時被告人が任意または適法な強制処分によつて現在する地域をいう。 二 被告人に黙秘権があるからといつて他人に虚偽の証言をするように教唆したときは、偽証教唆罪が成立する。 三 証人が証言拒絶権を有する事項であつても宣誓の上虚偽の供述をすれば偽証罪が成立する。