判旨
被告人が証人に対し、自己に有利となる虚偽の事実を証言するよう依頼し、その依頼に基づき証人が公判廷において記憶に反する供述をした場合、被告人には偽証教唆罪が成立する。
問題の所在(論点)
被告人が自らの刑事被告事件に関して、他人に記憶に反する虚偽の証言をさせた場合、自己罪状隠避の法理等に照らして偽証教唆罪が成立するか。
規範
刑法169条の偽証罪における「虚偽の陳述」とは、証人の記憶に反する陳述を指す(主観説)。また、自己の刑事事件について他人に偽証を教唆した場合には、正当な防御権の範囲を逸脱するものとして偽証教唆罪(同法61条1項、169条)が成立する。
重要事実
被告人は、横領被告事件において、証人Aに対し、これまでの証言内容を変更し、「金一万円はこれをBに交付した」旨の虚偽の証言をするよう依頼した。証人Aは、被告人の依頼を受けて公判廷に出頭し、自らの記憶に反して、被告人が依頼した内容どおりの虚偽の供述を行うに至った。
あてはめ
本件において、被告人は証人Aに対し、客観的事実および証人の記憶に反する特定の供述を行うよう積極的に働きかけている。この依頼に基づき、証人Aは公判廷という適法な宣誓がなされる場で、自身の記憶に反する供述をなしたと認められる。このような行為は、証人による真実の供述を妨げ、国家の審判作用を著しく阻害するものであり、自己の防御権の行使として許容される範囲を明らかに超えているといえる。
結論
被告人が、証人に対し記憶に反する虚偽の供述をするよう依頼し、証人がこれに従って供述した以上、偽証教唆罪の成立を認めた原判決は正当である。
実務上の射程
自己の刑事事件に関する証拠隠滅や偽証教唆がどこまで許されるかという「防御権の限界」に関する重要判例。答案上では、犯人蔵匿罪や証拠隠滅罪の教唆と同様に、他者を巻き込んで国家の司法作用を侵害した場合には、自己の事件であっても教唆犯が成立するという論理を展開する際に引用する。
事件番号: 昭和30(あ)3218 / 裁判年月日: 昭和35年1月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が自己の被告事件に関し他人に虚偽の陳述をするよう教唆した場合でも偽証教唆罪が成立し、また、偽証の実行犯による「被告人から依頼された」旨の供述は、被告人の自白そのものではないため、補強証拠なくして被告人を有罪とする根拠となり得る。 第1 事案の概要:被告人は、自らが被告人となっている刑事事件に…
事件番号: 昭和27(あ)2527 / 裁判年月日: 昭和28年5月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白が存在する場合であっても、第一審判決が自白以外の挙示された各証拠を補強証拠として認定している場合には、補強証拠を欠くという憲法違反の主張は前提を欠き、上告理由に当たらない。 第1 事案の概要:被告人が自白をしている刑事事件において、第一審判決は自白のほかに、挙示された各証拠を補強証拠と…