判旨
被告人に自己の刑事事件について黙秘権があるとしても、他人に虚偽の証言をすることを教唆した場合には、偽証教唆罪が成立する。
問題の所在(論点)
被告人が自己の刑事事件について黙秘権を有することを根拠に、他人に虚偽の証言を教唆する行為について、偽証教唆罪の成立が否定されるか。
規範
被告人に黙秘権が保障されているとしても、それは自己が直接虚偽の陳述を強制されない権利を意味するにとどまる。したがって、他人に働きかけて国家の審判作用を妨害する行為までもが当然に許容されるものではなく、他人に虚偽の証言をすることを教唆したときは、偽証教唆罪(刑法169条、61条1項)が成立する。
重要事実
被告人が自己の刑事事件に関し、弁護人の申請に基づき証人として出廷した者(A)に対し、虚偽の証言をするよう働きかけた。Aは、午前の公判で尋問を終了し、午後の公判において改めて検察官の申請に基づき尋問が行われた際、被告人の教唆に従って虚偽の陳述を行った。
あてはめ
被告人には自己の刑事事件について黙秘権があるものの、証人Aに対して虚偽の証言を教唆した事実は記録上明らかである。証人Aは午前の尋問の継続中に陳述を適法に取り消したものではなく、独立した尋問において虚偽の陳述を行っている。被告人が他人を介して司法権の適正な行使を阻害した以上、黙秘権の保障を理由として免責される余地はない。
結論
被告人に偽証教唆罪が成立する。
実務上の射程
自己の刑事事件に関する防御権の限界を示す重要判例である。証拠隠滅罪(104条)における「自己の刑事事件」の除外規定とは異なり、偽証教唆罪には同様の明文規定がないことを前提に、防御権の濫用として処罰を肯定するロジックとして答案で活用できる。
事件番号: 昭和29(あ)3965 / 裁判年月日: 昭和32年4月30日 / 結論: 棄却
一 刑訴第二条第一項にいわゆる「現在地」とは、公訴提起の当時被告人が任意または適法な強制処分によつて現在する地域をいう。 二 被告人に黙秘権があるからといつて他人に虚偽の証言をするように教唆したときは、偽証教唆罪が成立する。 三 証人が証言拒絶権を有する事項であつても宣誓の上虚偽の供述をすれば偽証罪が成立する。