判旨
被告人に黙秘権が保障されているからといって、他人に虚偽の陳述をするよう教唆する行為は偽証教唆罪を構成し、憲法38条1項に違反しない。
問題の所在(論点)
被告人が自己の刑事事件について他人に虚偽の陳述を教唆した場合に、憲法38条1項の黙秘権の保障との関係で、偽証教唆罪(刑法61条1項、169条)が成立するか。また、そのような行為を処罰することは、適法行為の期待可能性がないとして否定されるべきか。
規範
憲法38条1項は、何人も自己が刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されないことを保障するものである。しかし、被告人自身の黙秘権の行使にとどまらず、他人に虚偽の陳述を積極的に働きかける教唆行為は、自己の防御権の正当な行使の範囲を逸脱しており、偽証教唆罪が成立する。
重要事実
被告人は、証人として出廷する予定であったAに対し、被告人が裁判所で調べられる事態を想定して、事実を「すりかえて」虚偽の陳述をするよう供述を依頼した。被告人は、自己に黙秘権がある以上、他人に対して自己に有利な虚偽の証言をさせたとしても偽証教唆罪には当たらない、または期待可能性がないと主張した。
あてはめ
憲法38条1項の法意は、自己に不利益な供述を強要されないという消極的な特権に限定される。本件において、被告人はAに対し事実を「すりかえる」よう供述を依頼しており、これは単なる自己の供述拒否ではなく、国家の司法作用を妨害する積極的な働きかけである。したがって、黙秘権の行使としての防御の範囲を超えており、適法行為の期待可能性がないという主張も成立しない。
結論
被告人が他人に虚偽の陳述を教唆したときは、被告人自身に黙秘権があるとしても偽証教唆罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、被告人の防御権の限界を示したものである。答案上では、犯人隠匿罪や証拠隠滅罪の教唆において「自己の利益のため」であれば非難可能性が減少するかという議論の類推適用として言及される。ただし、偽証教唆は司法作用への侵害が大きいため、他人の偽証を利用する行為は特段の事情がない限り原則として犯罪を構成するという規範として用いる。
事件番号: 昭和30(あ)3218 / 裁判年月日: 昭和35年1月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が自己の被告事件に関し他人に虚偽の陳述をするよう教唆した場合でも偽証教唆罪が成立し、また、偽証の実行犯による「被告人から依頼された」旨の供述は、被告人の自白そのものではないため、補強証拠なくして被告人を有罪とする根拠となり得る。 第1 事案の概要:被告人は、自らが被告人となっている刑事事件に…
事件番号: 昭和29(あ)3965 / 裁判年月日: 昭和32年4月30日 / 結論: 棄却
一 刑訴第二条第一項にいわゆる「現在地」とは、公訴提起の当時被告人が任意または適法な強制処分によつて現在する地域をいう。 二 被告人に黙秘権があるからといつて他人に虚偽の証言をするように教唆したときは、偽証教唆罪が成立する。 三 証人が証言拒絶権を有する事項であつても宣誓の上虚偽の供述をすれば偽証罪が成立する。