一 被告人自体に黙祕権があるからといつて、他人に虚偽の陳述をするように教唆したときは、偽証教唆罪が成立する。 二 刑法第一〇四条にいわゆる証憑の偽造とは、証拠自体の偽造を指称し、証人の偽証を包含しないと解すべきである。 三 証人が刑訴第一四六条の証言拒否権を有したとしても、宣誓の上虚偽の陳述をしたときは偽証罪が成立する。
一 被告人の黙祕権と偽証教唆罪の成否 二 刑法第一〇四条の証憑の偽造には証人の偽証を包含するか 三 証人の証言拒絶権と偽証罪の成否
刑法61条1項,刑法169条,刑法104条,刑訴法311条1項,刑訴法146条,刑訴法154条,刑訴法155条1項
判旨
被告人が自己の被告事件につき他人に虚偽の陳述をするよう教唆した場合は、黙秘権の保障や証拠隠滅罪の趣旨にかかわらず、偽証教唆罪が成立する。また、証言拒絶権を有する証人がこれを放棄して宣誓の上で虚偽の陳述をした場合も、同様に教唆者は偽証教唆の責を免れない。
問題の所在(論点)
1. 自己の被告事件について他人に偽証を教唆する行為が、被告人の黙秘権や自己証拠隠滅の不可罰性の観点から偽証教唆罪を構成するか。2. 証言拒絶権を有する者が拒絶権を放棄して偽証した場合に、その教唆者が罪を問われるか。
規範
1. 被告人には黙秘権が認められているが、他人に虚偽の陳述をするよう教唆したときは偽証教唆罪の責を免れない。2. 刑法104条の「証拠」の偽造とは証拠自体の偽造を指し、証人の偽証を包含しない。したがって、自己の被告事件に関する行為であっても同条の趣旨から当然に不可罰とはならない。3. 証言拒絶権(刑訴法146条)を有する証人がこれを放棄して宣誓し、虚偽の陳述をした場合には偽証罪(刑法169条)が成立し、その教唆者も偽証教唆罪の責を負う。
重要事実
被告人が、自己の被告事件において証人Aに対し、宣誓の上で虚偽の陳述をするよう教唆した事案。弁護側は、①被告人自身の黙秘権の行使または自己の証拠隠滅行為(刑法104条の類推)として不可罰であること、②証人Aには証言拒絶権があったため、偽証罪自体が成立しないことを主張して上告した。
あてはめ
1. 黙秘権は被告人自身が供述を拒む権利に留まり、積極的に他人の偽証を促すことまでを保障するものではない。また、証人の証言は刑法104条にいう「証拠」そのものの偽造には当たらないため、自己の証拠隠滅行為を罰しない趣旨を偽証教唆に拡張することはできない。2. 証人Aは証言拒絶権を行使せず、宣誓した上で虚偽の陳述を行っている以上、正犯に偽証罪が成立する。これを教唆した被告人において教唆犯の成立を否定すべき理由はない。
結論
被告人は偽証教唆罪の罪責を負う。本件上告を棄却する。
実務上の射程
自己の刑事事件に関する証拠隠滅行為(104条)が不可罰とされる理屈を、他人の偽証を利用する「偽証教唆」には適用しないことを明確にした。答案上は、期待可能性の欠如を理由とする不可罰論(学説)を排斥し、国家の審判作用の侵害を重視する判例の立場として引用すべきである。証言拒絶権の放棄と偽証罪の成否についても併せて確認できる。
事件番号: 昭和26(あ)262 / 裁判年月日: 昭和27年2月14日 / 結論: 棄却
被告人自身に黙祕権があるからといつて、他人に虚偽の陳述をするよう教唆したときは偽証教唆の責を免れない。